第19章 ふたり
「何でお前さんの髪はそう白いんじゃ。怖いくらい白いのう。遺伝か」
熱の名残りを逃さぬように毛布に包まりながら訊ねると、カクの脇腹に体を寄せてうとうとしていたラビュルトがフと笑った。
「そうねえ…どうしても聞きたい?」
「聞きたかないこた聞かん」
肘をついてスパッと言い切ったカクを、ラビュルトは不思議そうに見た。
「聞いてどうするの?楽しい話じゃないかも知れないじゃない」
「話したくなけりゃいいんじゃ」
ついた肘を頭の後ろに回して、カクは天井を眺めた。
「だがまあ、言っとくがワシャ、お前さんの面白可笑しいところばかり知りたいとは思っとらんでのう。うん。知りたいだけじゃ、お前さんの事を」
「ふうん」
ベッドに両肘をついて頬杖したラビュルトは、煙るような目を瞬かせて長い膝下をパタパタと遊ばせた。
「言っても信じるかなあ」
「うん?」
「赤ん坊に毛が生えた年頃に、樽に詰められて海に流されて七日。この町に流れ着かなきゃ死んでたわ。それからアタシの髪はずっと白いまんまなの」
悪戯っぽく笑いながら、ラビュルトはカクの頬でキスを鳴らした。
「アタシの髪、綺麗でしょ?どう?ねえ、綺麗って言ってよ。アンタにそう言われたら、アタシますますアタシが好きになっちゃうと思うのよ」
「お前さんは綺麗じゃよ。髪が何色だって変わりないわ」
カクは長い腕でラビュルトの頭を押しこくって苦笑した。
「お前さんの言う事はいまひとつ真面目に聞かれん」
「ほら、信じないじゃない」
モスグリーンの毛布をカクから剥ぎ取って、ラビュルトはニッコリした。
長い体に毛布を巻き付けてぞろりとベッドサイドの椅子に座る。
「信じんとは言わん。突拍子もないと思うただけじゃ」
下着を身に着けたカクが胡座をかいた。
「で、そこからどういう成り行きで今のお前さんが出来上がったんじゃ?」
「うーん…」
いつ持って来たのか、ベッドの傍らから優しげに紅い絹を摘み上げてラビュルトは首を傾げた。
「どうしても知りたい?」
白髪がサラリと流れて、カクは頭を掻く。
「無理強いしようとは思わん。じゃが、やっぱり知りたいから聞くんじゃ」
色とりどりの絹糸をサイドテーブルに広げて、ラビュルトはフンフンと小刻みに顎を上下させた。
濃い緑の絹糸を取り上げて針に通し、カクへ他意のない目を向ける。