第16章 買い物に付き合えば相手がわかる
「そうそう。夏にさ、来てくれたでしょ、うちに。いっぱい薬とお花持って。あのおばあちゃんのお孫さんも、確か誕生日だったと思うのよ。十二、三…四だったかな…。センセイみたいにひとりでよそに勉強に行ってるんだよ。凄いよね。お祝いしたげたくない?おばあちゃんも喜ぶよ」
「ひとりで?」
「そう、ひとりで」
ちょっと考え込むように、ラビュルトの紅い睫毛が伏せて頬骨の平たい目の下に淡い影をつくった。
ひとりで。
噛み締めるように声なく呟いたラビュルトの口の動きをカクは不思議に見やった。
何を屈託しよる?
フとラビュルトがカクを見る。
灰色の目がパッと明るくなった。
「あのね、薬草やポプリを特別に分けてくれてる人がいるの。うちの仕事は体にも心にもキツかったりするから、日頃のケアが大事なんだ。毎日のひと息?大事な事よ。それを助けてくれてるの。飽くまで善意でしてくれてるから、内緒の秘密なんだけど…」
大きな口がにんまり笑う。
「うん。内緒の秘密のプレゼントがそんな素敵な人のハニーをちょっとでも喜ばせられたら、それこそすンごい足長おじさんじゃない?」
…ワシはコイツを全然知らん。
カクはフッと笑い返して思った。
家の事も好みも思い出も、誕生日さえ。
「あたしもおめでとうしたらよろこぶ?ハニー?」
ソマオールの問いにラビュルトは目を細めた。
「と、思うわ。大好きなおばあちゃんのお友達からプレゼントが来たらちょっとワクワクしない?大体ね、お楽しみは沢山あった方が素敵よ?プレゼントの箱は一個でも多いのが嬉しいもの。開ける楽しみだけでお腹いっぱいになるくらいにね。少なくともアタシはそうだな」
「欲張りじゃのう」
微笑ましく冗談めかしたカクへ、ラビュルトは熱心に生地の山を見分けながら何心なく独り言のように答える。
「そんなにいくつもなくてよくなるかな。大事なものがわかったら」
綺麗な線を描く横顔が夢でもみているような笑みを浮かべた。
「アンタもその大事のひとつよ」
棚から引っ張り出したアイスブルーのシフォンとコチニールレッドの絹地を抱え、ラビュルトはその目を真っ直ぐ見ながらカクの唇に餌を啄む小鳥のようなキスをした。
「さあ、黒髪に翠の瞳のハニーには綺麗な髪と聡しい瞳に映えるリボンをつくるわ。ソマリーは母さんとサシェに挑戦してごらん。オッケー?」