第16章 買い物に付き合えば相手がわかる
「アハハッ、大丈夫よ。アタシの料理は父さん仕込みだからね。何だって美味しくつくれるわよ?多分」
「…その多分が曲者じゃな…」
「ラビュのごはんはおいしいよ?ニンジンもキュウリもみんなおいしいの」
ソマオールにぐいぐい腕を引っ張られて、カクは声をあげて笑った。
「ハハハ、わかった。ソマオール、お前はニンジンとキュウリが好かんのか。成る程な」
「…ちがうよ?…ソ、ソマオールはお肉とお菓子がきらいなんだ…」
「…ソマオール、そういうのはな、饅頭怖いっちゅうんじゃ。安心せい、ニンジンもキュウリも段々にゃ食えるようになるわい。…多分な?」
「ふうん…確かに曲者だわね、多分ってのは。ソマリー、好き嫌いはちっちゃいうちからない方が、いっぱい美味しい思いが出来て幸せよ」
「しあわせかあ…」
「そうよ、幸せよー?」
お茶が長引いたせいで、辺りはもう日暮れている。
約束通り町まで連れ出したものの、そう長くソマオールと居られない。暗くなる前に家へ送り返さなければ。
ソマオールは以前家庭教師をしてくれていた相手に誕生日のプレゼントをしたいらしい。今は大学で勉強中だが、来年には帰って来る大好きなセンセイに何か贈るのだと鼻息が荒い。
「アイスブルーのシフォンはどう?ブルーって彼女に似合いそう」
行き付けらしい服飾店でラビュルトがふんわりした綺麗なブルーの生地を手にとった。
「アンタはお小遣い出して白いストローハットを買いなさい。アタシはこれをリボンに仕立てる。後は母さんにラベンダーのコサージュを造って貰いなよ?身の詰んだ壊れにくい可愛いのをね。そしたら他には一個もない素敵な帽子が出来ちゃうよ?」
「白いぼうしに青いりぼんと、ラベンダー?…う、うわぁ…」
「素敵でしょ?」
「うん!うん!ありがとう、ラビュ!」
抱き付いて頬に盛大なキスを鳴らしたソマオールに、ラビュルトはくすぐったそうに笑う。
「どういたしまして。アタシもお祝いに混ぜて貰えて嬉しいわ」
肩をすくめてカクにウィンクして見せてから、ラビュルトは再び生地の並びに目を戻した。
「ねえ、ソマリー。アンタ、お花とお薬のおばあちゃん覚えてる?」
「うん?えーと、いい匂いのおばあちゃん?」