第16章 買い物に付き合えば相手がわかる
「ねえおいしいって、どんなふう?」
ソマオールが歌いながらスキップを踏む。
「ふぅっくりこんがり、やっけたときぃ!」
腕にぶら下がって弾むソマオールと一緒にラビュルトの体も上下する。
いつも笑ってるような口角の上がった唇が微かに動いて、小さく一緒に歌っているのがわかる。
「パパのパイみたいな?」
元気よく言うソマオールに、ラビュルトは朗らかな笑みを顔いっぱいに広げる。笑いじわなぞついぞ気にした事もないだろう、開けっぴろげで気持ちいい笑顔。
「父さんのキッシュみたいな?」
「ママのピッツァ!」
「ソマリーのほっぺた!」
「ラビュのおっぱ……」
「待て待て待て待て」
元気よく言いかけたソマオールの頭に、大きな手が載る。
「ストップ。ストップじゃ」
栗色の髪をごしゃごしゃと撫で、戻ってきたキャップの下でカクが苦笑いする。
「ソマオールは歌が上手いのう。ラビュルトに似ないで何よりじゃわい」
「アハハ、そうね。でもアタシはソマリーと歌うのが好きよ?楽しいもん」
あっけらかんと言うラビュルトの手を、カクは笑いながら握りしめた。
「小さい声で一緒に歌っとったな」
「おっきな声で歌っちゃソマリーの歌が聴こえなくなるじゃない?」
仕様もない。
こんな他愛ないやり取りで死ぬ程可愛く思ったり、抱きしめとうなったり、どうなっとるんじゃ、ワシは。
「アタシも!アタシも手つなぐ!」
ソマリーがカクとラビュルトの真ん中に割って入って二人の手をとった。
「ラビュもカクもおっきい!ベンサムすごくおっきい!あたしもおっきくなる?」
二人の手を振り回しながらソマオールが真剣な顔で聞いてきたから、カクはラビュルトからソマオールへ視線を移した。
「さぁなあ…そればっかりはわからんのう」
「あらら?好き嫌いしなきゃ大きくなるって言うかと思った」
ラビュルトが可笑しげに言う。カクはソマオールを抱き上げて顔をしかめた。
「ワシャこれでちっとばかり偏食持ちでな。人に何でも食えと説教する口は持たん」
「あー、魚とか?」
にんまり大きな口で笑ったラビュルトを見て、カクは盆の窪を掻いた。つられて上がった口元を隠す為に。
「お前さんにゃ教えん。大喜びでそればっかり出しそうじゃからな」