第15章 お茶会
ワシを知っとる?まさか。
「あんさん、流れ者か?」
フォークを弄びながらジュベが問う。
「···そうとも言えるかの。今はここに腰を据える気でおるが」
警戒しながら答えると、ジュベはやおら立ち上がってテーブルを周った。
ベンサムを弄るのに夢中で、ソマオール以外誰もそんなジュベに気付かない。
カクは黙ってジュベを目で追った。
「うん。ひと処に腰を落ち着けたくもなるもんだ。ひと休みしたくなるときもあるさな」
背後でジュベの足が止まる。次いで肩にすんなりした手が載った。
「あんさんも難儀だな」
カクは眉をひそめたが振り返らない。
「···お前さん、ワシに何の用じゃ」
スルッと脇の下からに細身で締まった腕が伸びて、カクの上着の隠しに封書を忍ばせた。小さな声が囁く。
「用があんのは俺じゃねえよ。俺の客だ。···確かに渡したからな?カクさんよ」
「ぅわッ、何をしよる!」
もう片脇の下にも腕が滑り込んで、ジュベがきゅっと抱き付いてきた。ソマオールが目を真ん丸にして見守る前で、カクの短い髪が一遍に逆立った。
「止めんかッ、ワシにゃそっちの気はないわい!」
「あら、駄目よ、ジュベ。カクはあなたやベンサムのお仲間じゃないんだから」
カクの声を聞き付けたマリィがニコニコしながらジュベを諌めた。
「いい体してるからついね。こんな驚かれるたァ思わなかった。案外肝が小さいんだな?ま、悪かったよ、アニさん」
椅子の背越しにカクの胸へ手を回したまま、ジュベが可笑しそうに言う。
「減るモンじゃなしいいじゃない?抱き付かれるくらい。何ならアタシが替わるわよ?」
真顔のラビュルトにカクは目を吊り上げた。
「冷や汗で目方が減るわ。抱き付かれたきゃワシが後で幾らでも抱き付いてやる。妙な気を起こすな!」
「怒ったりヤキモチ焼いたり忙しいわねえ、カクは」
朗らかに白髪を揺らすラビュルトの笑い声に、カクの耳元でジュベの笑い声が重なった。
「俺は女にゃ抱き付かねえよ。仕事でもなきゃごめんだね」
やっと体を離して、ジュベは人の悪い顔をした。
「男にだって滅多と抱き付いたりしねえさ。仕事でやり飽きてるからなァ」
「ふん。何ソレ、自慢?」
ボン·クレーがお茶を呑みながらツンと言う。カクはテーブルに肘を付いてまた額に手を当てた。