第13章 海を臨むテラス
口角を上げて凄味のある笑みを浮かべたカクは、ラビュルトに顔を覗き込まれてハッとした。
「知り合いなの?」
不思議そうに目を見てくるラビュルトに、カクはフッと一旦目を閉じてひと呼吸置き、屈託ない笑顔を向けた。
「オカマに知り合いはおらん。コイツの人相が悪過ぎるのがいかんのじゃ。何ぞ勘違いしてしもうたわい」
「···何よソレ。アンタ初対面だってのに随分言いたい放題言うわねン?···あらン?もしかしてソレってェ、好きの裏返しってやつゥン?アンタ、アチシに一目惚···」
真顔のボン·クレーに、カクが笑顔を向ける。
「ワシャそういう冗談は全く好かん」
「厭よ厭よも好きのうちって言うじゃなーい?」
「ワシに限ればそんなこた一切ないわい。厭なモンは厭じゃ。安心せい。ワシが厭じゃと言うたら裏表なく厭って事じゃ。してワシャお前さんが全く好かん。下らん冗談よりなお好かん」
「まぁたまた、照れなくたっていーのよぅ!やぁねィん、素直じゃないンだからン!」
「···コレはアレか?もう一発殴ったらいかん客か?問題ないなら是非食らわしてやりたいんじゃが」
普通も手加減も綺麗に忘れたカクが首を捻って、誰にともなく聞いた。何しろ相手が普通でないので非常にやりやすい。
「お茶が冷めちゃうわよ」
黙ってニコニコと成り行きを見守っていたマリィが、ラビュルトに取り分けたタルトを配るように目配せしながら穏やかに言った。
「ジャンは呑んだり食べたりしてるときに喧嘩なんかすると、凄く怒るの。つくるのも食べるのも好きなせいかしらねえ。兎に角、うちでテーブルについたら仲良くして欲しいわ、是非」
「あらん、アチシたち仲良しよねン?ねえ、鼻?」
「···鼻···成る程、鼻な。ちょっとその馬面を貸さんか?お前さんと是非男同士の話がしたい」
「男同士の話ィ?無理無理無理よン、アチシとアンタじゃ男とオカマの話しか出来ないっての。なぁにィ?アチシと二人になりたいってのン?安かないわよン、アチシは」
「高かろうが安かろうがどうでもいいわい。値をつけるのはお前さんの勝手じゃが、それを買うヤツがおるかどうかはまた別の話じゃからな。勝手に売れ残っとりゃいいんじゃ···て、おい待たんか。何を心底驚いてるんじゃ?もしかして売れる気満々か!?本気か!?ビックリじゃのう!」