第13章 海を臨むテラス
「鼻鼻やかましい!普通に話せ!シナをつくるな!ラビュルトから離れんか、たわけ!」
馬鹿でかい手で、真っ直ぐ前髪の切り揃った頭を撫で擦る馬面のオカマに、カクは目を三角にして声を荒げた。
「うるっさい鼻ねン⁉大体品がないってんなら、この女だって負けてないじゃない⁉何でアチシだけ殴らんなきゃないのよぅ⁉不公平じゃないン⁉」
喚くオカマにカクはツンと顎を上げた。
「ワシャ女にゃ手を上げん」
「アチシだって立派なオカマよン⁉半分は女だっつの!手ェ上げてんじゃないわよ⁉」
「何処の半分が女じゃ。ワシャ認めん。お前さんは男じゃ。どっからどう見てもあちこち間違った男じゃわい」
「んまッ、バカ言ってんじゃないわよーう。アチシはね!体は男、心は女、その名···」
「黙れ。ワシャコナンは好かん。どっちかっちゅうたら金田一派じゃ」
「あらん?じゃ、アレ?じっちゃんのは···」
「鼻にゃ何もかけん!!デジャブか、これは⁉鼻の話は止めんか!ワシャやさぐれて来たぞ、クソッ」
まだしっかりとオカマの首ったまにしがみつくラビュルトを引き剥がし、尚も物申そうとしてカクはフと口を噤んだ。
目をすがめてベンサムと呼ばれるオカマに改めて見入る。
「···いや、お前さん···何処ぞで見た顔じゃな···?」
「ギクッ」
「ギクッて何じゃ。ベタじゃの」
カクは呆れ顔をしつつ、サッと顔を背けたベンサムを眺め回した。
「···うん。そうじゃ。白いスーツなんぞ着とるからようわからんかった···お前さん、バロックワークスのMr2じゃな?確かボン·クレーとか言いよる珍妙なのがおったが、お前さんがソレじゃろう?」
「珍妙だのソレだの失礼な鼻ねッ⁉鼻でリボンをつくっちゃうわよ⁉つく···つくって···ヤダ、ちっとも可愛くなんなさそうねィン···」
「可愛くなくて結構、望むところじゃわい。お尋ね者がこんなとこで何をしとる?キナ臭いのう」
ラビュルトから手を離して腕を組み、スイと顎を引いたカクに、ボン·クレーはピンク色のネクタイを弄りながら眉を上げた。
「ふん。キナ臭いのはお互い様じゃない?···アンタ、カタギの匂いがしないわよン?」
「···ほう?そうかのう?···そら不思議じゃ。何でじゃろうな」