第13章 海を臨むテラス
手加減出来る自信がない。
手加減出来ないとなればうっかり相手を死なせかねない。
いかん。仕事以外の要らん用で人に乱暴を働いたらいかん。ワシャそもそも普通じゃない。肝に命じにゃならん。仕事が無いようになったこれから"普通"になるんじゃ。その為にゃ、手も足も使ったらいかん。
自分に言い聞かせながらムッツリするカクに、ラビュルトが無邪気な笑顔を向ける。
人の気も知らんで呑気なモンじゃ。
「ビックリするわよ」
「だから何がじゃ。サッパリわから···」
「や〜だぁん!アンタ、相ッ変わらずオバァちゃんみたいな頭してるのねィん!」
ラビュルトがテラスに面した大窓を開けた途端、スコーンと突き抜けた声がした。
眼前に海が広がる。
潮風が吹いてテラスを囲む丈の高い取り取りの花を揺らした。
気持ち良いテラスの真ん中に円卓が据えられている。先に席についたマリィの向かいで細長い人影が、蚊トンボみたような足を持て余し気味に組んで腰掛けている。
あれが素っ頓狂な声の主らしい。
「ベーンサム!」
ラビュルトが嬉しげに呼ばわって駆け出した。
「久し振り!元気だった⁉ヤだもう、全然変わりないのね!!相変わらず、すっごく変ですっごく素敵よ!!」
長い腕を伸ばして、自分よりカクより更に細長い人影に飛び付く。
「相ッ変わらず失礼なコねィん。ムカつくわぁ。ちょっとッ、くっつくんじゃないわよン!アチシに抱き付きたきゃ生やすモン生やしてからにしなさいよン!」
明らかな男声で頓狂な話し方をする異様な人物が、物凄く迷惑そうにラビュルトを押し返した。ラビュルトは一向にめげる様子も見せず、大口を開けて朗らかに笑う。
「アハハハハ!ベンサム、生やすモンって、もしかしてちん···」
「いい加減にせんかッ、バカタレ!」
堪らず手が出て、気がつくとカクは、ベンサムなる人物の頭に拳骨を落としていた。
「闇雲に品のない話をするな!ソマオールが真似しよったらどうするんじゃ!子供の手本にもなれんような大人になったらいかんぞ⁉もぉちっと真面目に年をとらんか、口曲がりが!」
「あったァ〜、ちょっとォ何よン、このジジィは⁉よくもアチシに手を上げたわねン⁉変な鼻しちゃっていい度胸じゃない⁉そこになおんなさいよン!!オカマ甘く見ると痛い目に合うわよン⁉鼻もいで男前にしちゃうんだから!」