第1章 ラビュルト・エンダ
「アタシは誰より自分が好きなの。だから、誰にほめられたって関係ないのよ。アタシが嬉しいときは、アタシがアタシらしいって自分をほめてあげられるときだけ。・・・自分より好きな人が出来るまでは、多分ずっとそう」
首に回されたラビュルトの腕がしっくりする。馴染んだ感触のような錯覚に、流石はプロだと苦笑が洩れた。やれやれ。
「正直者じゃな」
「ほめても駄目だってば。そういうのいらないの。アンタもただ正直でいてくれればいいから。アタシといる間は」
「ワシャいつだって正直じゃ」
ベッドに腰かけたままラビュルトを抱き上げて横たわらせる。
「だからハッキリ言うとこう。ワシャお前さんを抱く気はない。お膳立てされて女を抱くほど切羽詰まっとりゃせんからな」
「勃ってるのに?」
「勃っとってもじゃ。いざとなりゃ自分で何とでもするわ」
「切羽詰まってるじゃない」
「ほっとけ」
「ほっとけないのよ。仕事柄」
「その仕事柄も気に食わん。お前さんが自分より好きな相手が出来んうちは誰にほめられても味気ないように、ワシも女を抱くなら自分より好きな相手を仕事や義理抜きで抱きたいんじゃ」
「じゃアタシじゃ駄目だね」
「残念じゃな。もう寝ろ」
「折角勃ってるのにね」
「くどいわい。お前さん、黙っとりゃお姫さんかと思う程綺麗なんじゃから、口を慎んだらどうじゃ?明け透け過ぎるわ」
「だからどうでもいいんだってば。どうしてもほめたきゃ顔じゃなくて身体にしてよ。鍛えてるんだ」
ぐっと口角を上げて気持ちいい顔で笑い、ラビルトが上体を起こした。
「身体じゃって綺麗じゃ。正直見飽きんよ」
真顔で言ってやると、肩をすくめて白髪を揺らしながらベッドから下りる。
高い背丈に見合った長く伸びやかな手足、括れと尻のライン、女にしては広い肩幅、激しい動作の妨げにならない程度の胸、確かによく仕上がった身体をしている。
「岩登りが趣味なの。フリークライミング」
観察されているのに気付いてラビュルトが笑った。
「アルパインやアーバンフリーも好き」
「納得じゃの」
ボディコンシャスな朱色のサイドレースノースリーブワンピースが扇情的に映らないのは、無駄なく鍛え上がった絵に描いたような身体のせいだ。整いすぎて隙がない。
「そのうち自分のコを連れて、一緒にクライミングするのが夢」