第1章 ラビュルト・エンダ
「ふん?そう?何て説明するの?下品でデカくて色気なしで気に入らなかったって?ソバカスの女はヤだって言う訳?」
言われて初めて鼻から目の辺りまで散るソバカスに気が付いた。
「じろじろ見ないで。気にしてるんだから」
自分から言い出したくせに目を三角にしてムッとする様子に思わず頬が弛んだ。
目を見張るほど綺麗な顔と身体をしているのに、ちぐはぐに幼くてそれが気に入った。
ベッドに腰かけてキャップをとる。
「わかった。朝まで一緒に居てやるわ。そうすりゃお前さんも申し訳が立つじゃろ?」
「いらない。可哀想がらないでよ。バカみたいじゃない、アタシが」
「可哀想?バカじゃな。ちょっとばかりお前さんが気に入っただけじゃ。可哀想と思ったくらいで気に入らんもんと居ようとは思わん。ワシャそこまで人が好い男じゃないわい」
ラビュルトが後ろから肩に顎を乗せてきた。気安い、と思ったが、不快ではない。薄荷糖のような、胸のすく甘い匂いのせいか。
「アンタ本当に女を知らないの?」
「嘘言ってどうする。妙な事聞くヤツじゃな」
「うえ。じゃ、元からの女たらしだ」
「何の話じゃ。ワシャ女をたらした覚えなぞないわ。そもそも女にゃ大して興味がないんじゃ」
ラビュルトの灰色の目が見開かれる。ちとイヤな予感がした。
「ああ、そういう事?何だ、じゃ、残念だけど、いいとこ紹介するわ。もっと北の街に行くとね、泥棒でも脱獄犯でも軍人でも、皆相手にしてくれる男がいるから」
「いよいよ何の話じゃ」
呆れて顔を向けると、白々した白目にトネリコの若葉のような虹彩の散った灰色の瞳が間近い。
「わざわざ男と寝るほど女嫌いじゃと誰が言った?大体ワシャこの街が気に入ってるんじゃ。北に追い払われる気はないわい」
目と目だけで見詰め合う。
「変わった目をしとる」
「よく言われる」
ラビュルトの瞬きで瞼が睫毛に払われた。
「お前さん、綺麗じゃな」
ベッドに長い足を乗せ、ラビュルトをその間に挟んで更に目を覗き込む。
「そうね。アタシは綺麗かも知れないわ。それもよく言われるから」
ラビュルトが笑うと、白い髪が揺れて薄荷糖が匂い立った。
「どうだっていい事だけどね」
「ほめられて嬉しくないのか、お前さん?」
腰に手を回すと、括れがしっくり腕に収まった。