第10章 ワシの前だけにしとけ。
「そんなの無理よ。アタシ、歌うの好きだもの。それに歌声で目が覚めるって、ちょっと良くない?」
「目が覚めるどころかワシャ息の根が止まるかと思うたわ!そうなりゃ永遠に寝っぱなしじゃ!ちょっと良いも何もありゃせんわい!」
「大きい声出さないでよ。他の部屋の人が起きちゃうでしょ?」
「絶対手遅れじゃ。お前さんの歌声に今頃近隣住民皆怯えとるぞ」
「ふうん?ま、早起きは三文の得よね?」
「・・・お前さん知らんのか。三文ってのは100ベリーのことじゃぞ?お前さんの声でえらい目覚めかたをした挙げ句缶ジュース一本買えん得をして何になるんじゃ!?そんなんじゃったら寝坊した方が価千金じゃわい!」
「あらら。缶ジュース買うには20ベリー足りないわね」
白目の皿にトマトとベーコンの入った掻き玉子を盛りながら、ラビュルトが眉をひそめる。
「あと20ベリー稼ぐにはどうしたらいいかしら?」
「・・・知らんわ」
「きっちり20ベリーよ?」
湯気の立つジャガイモと隠元に溶かしバターをかけ回し、ラビュルトは首を捻った。
「・・・20ベリーきっちりのう・・・ふむ・・・」
目の前に置かれたレタスを無意識に千切りながらカクもつられて首を捻る。
「靴磨きなんかどうじゃろう」
サラダボールの賽の目の胡瓜と茹で人参の上にレタスを盛り、考え考え言ったカクにラビュルトが頭を振った。
「ないない。靴磨きは案外稼ぐわよ」
「・・・肩叩き・・・」
「それはお小遣いじゃない?」
パンと昨夜食べずにしまった煮込みをテーブルに置いて、ラビュルトはカクの前に塩とレモン、オリーブオイルを並べた。
「難しくない?20ベリー」
「そうじゃなあ・・・」
サラダに塩を振ってレモンを絞り、オイルを垂らしてから、カクは頬杖をついた。
「あ!わかった!」
椅子を引いてラビュルトが嬉しげな声を上げる。
「何じゃ?」
「アタシが街角で歌をうた・・・」
「逮捕されたいのか、お前さんは。保釈金に一億ベリーはかかるわい。止めとけ。はい、いただきます」