第10章 ワシの前だけにしとけ。
物凄い雑音で目が覚めた。
誰かが何処かのガキ大将のような声でがなっている。部屋が小刻みに揺れているような気がして、カクはカッと目を見開いた。
「な、何事じゃ!?」
ガバと体を起こして左右を見回す。
ベッドにラビュルトの姿がない。厭な予感がした。
下着を身に着けて雑音の源であるらしい台所を覗き込む。
果たして裸に白いシーツを巻き付けたラビュルトが、レードルを振り回しながら気持ち良さそうに雑音を巻き散らかしていた。
カクには、鍋や食器がカタカタと震える様子が確かに見えた。絶対に見えた。
「止めんかッ!朝っぱらから何をやらかしとるんじゃ、お前はッ!」
「あ、おはよ。素敵な朝ね、カク」
騒音がぴたりと止んで、ラビュルトの気持ちの良い笑顔がカクを振り返る。
・・・ハナからこの顔だけ見て目が覚めておりゃ文句なしじゃったものを・・・
カクは台所の小さなテーブルに据え付けた椅子にガックリと腰を下ろした。
「念のため聞いとくが、今の凄いのはお前さんの声か?」
「うん?だって昨日聴きたいって言ったじゃない?Somewhere over the rainbow?」
「お前さんががなっとったのはそれか!?サッパリわからんかったぞ!?」
「知らない歌をリクエストした訳?アンタ、ホント変わってるわね」
きょとんとしたラビュルトに、カクは頭を抱えた。
「黙っておりゃ白のシーツが花嫁衣装かと思う程綺麗なものを・・・」
「・・・歌ってたら何だって言うのよ」
「謎の物体じゃ。ワシャこんな壮絶な雑音は初めてだわい」
真顔できっちり言い切ったカクに、ラビュルトの弾けるような笑い声が降り注いだ。
「あッははははッ、そうなの!アタシ、スッゴい音痴なのよね!」
「わかっとるなら歌うな!ワシャ部屋が基礎からぶっ壊されるかと思うたわ!」
ラビュルトがまたもきょとんとしてカクを見る。
「歌えって言ったじゃない。虹が近くなるんでしょ?」
「虹なんぞ予想を遥かに越えた展開で根本から吹っ飛ばされて雲散霧消したわい!何じゃその奇跡の歌声は!?またお前さんの声が馬鹿デカイ!音痴がわかっとるなら少しは遠慮して歌わんか!」