第10章 ワシの前だけにしとけ。
「・・・ちょっと。歌っただけで逮捕はないんじゃない?どんだけよ、それって」
「お前さんが歌うのが好きなのはわかった。じゃが歌うのはワシの前だけにしとけ」
レタスを刺したフォークをラビュルトに向けてカクはしかめ面をした。
「ワシャ一億ベリーも持ち合わせとらんからな」
「・・・アンタが保釈金払う訳?」
ラビュルトが目を瞬かせた。
「うん?違うのか?」
ミルクの入ったグラスを手にカクがきょとんとする。ラビュルトは大きく笑ってテーブルの下でカクの足をコンと蹴った。
「バッカみたい!」
「嬉しそうにバカなんぞと言うな。妙なヤツじゃな」
「ふふん。わかった。アタシはアンタの専属の歌い手って訳ね」
「・・・いや、正直出来ればクライミングのついでに山ン中でひとりで歌うて欲しい・・・」
「またまた、遠慮しないでよ!」
「・・・もういいわい。専属でも何でも好きにせえ。サッサと食わんと飯が冷めるぞ」
「はい、いただきます!」
ニッコリとフォークを手に取ったラビュルトに、カクは苦笑いした。
「全く他愛ない・・・ラビュルト、お前さん、子供みたようじゃなぁ・・・」
「そう?」
「あぁ、可愛らしいわ」
「・・・たらし」
「やかましい」
テーブル越しにラビュルトの鼻を摘まみ、カクは楽しげに笑って言った。
「ワシャ正直なだけじゃ」