第1章 ラビュルト・エンダ
象牙色の肌と明るい緑が散る灰色の瞳、大きな口はいつ見ても楽しげに上向きのカーブを描いて恋を謳い、長い手足は自由を謳う。
「何でお前さんの髪はそうも真っ白いんじゃ。怖いくらい白いのう。遺伝か」
肌を合わせながら問えば、にんまり笑って嘘か本当かわからない事を言う。
「樽に詰められて海に流されて七日、それからアタシの髪はずっと白いまんま。綺麗でしょ?どう?ねえ、綺麗って言ってよ。アンタにそう言われたら、アタシますますアタシが好きになっちゃうと思うのよ」
ワシが山の風ならお前さんは鷹じゃ。
同じ高さで同じものを見、戯れあい、交わり、迅く空を駆ける。
縛られないもの、高みを望むもの。お前さんが好きなものは、皆何処か遠くにある。
そんなだからお前さんもサッサと遠くに行ってしまったんじゃろ?
よくワシの鼻を笑っとったが、待っとれ。いずれワシがそこに行ったらば、今度はお前さんのソバカスを笑ってやるわい。
気にしとるようじゃったから一度も言えんかったが、ワシャお前さんのソバカスが可愛らしくてならなかった。
綺麗過ぎたお前さんの、たったひとつの泣き所が。
愛しとるわい。ラビュルト。
寂しくてならんのじゃ。お前さんに会いたい。
高級娼婦という職業がある。
世過ぎ身過ぎに文字通り身体を張る仕事だが、誰でもなれるものではない。
「アタシはそういう仕事をしてるの。まぁ高級娼婦って言ったって、切れっぱしくらいのモンだけど。ホラ、この通りアタシ、明け透けで色気がないから」
そう言って長い姿態をベッドに横たえた女は、ラビュルト・エンダと名乗った。
「アンタ初めてなんだって?不思議ね。いい男なのに。キスしづらそうな鼻はしてるけどさ。ぷ・・・はははッ」
「・・・高級娼婦にしちゃちと下品じゃ。ワシャ帰る」
「そう?下品な女は嫌い?じゃ、アンタはアタシが嫌いなんだ?」
ラビュルトは耳の下で切り揃えた白髪を掻き上げて、そこだけ煙るように赤みがかった形のよい眉をひそめた。気の良さそうな大きな口は笑ったままだ。
「そんな事は言っとらん。初めて会った相手をいきなり嫌う程ワシャ偏屈じゃないわい」
「なら抱いて帰りなさいよ。アタシが怒られちゃう」
「誰も怒りゃせん。ワシが説明しておくから心配いらん」