第6章 我慢強い男は・・・
「どうもときどきお前さんが話す事は適当でな。ワシャいまいち信用しきらん」
「いきなり関係にヒビを入れようっての?いい度胸じゃない」
「度胸は関係ないじゃろう」
「アタシを怒らせると怖いわよ?」
「はあ。そりゃ怖いのう」
「・・・アンタだって十分適当だと思うのよ」
「ワシャお前さんに合わせとるだけじゃ」
「喧嘩売ってるの?」
「人にものを売り付ける程貧乏はしとらん」
「失業中なのに?」
「ワシャあまり金を使わんでの。取り立てて欲しいものもなし、食うていければ十分なんじゃ。金がなくともさして不自由ない。だからどのみち人にものを売り付けたりはせん」
「ふうん・・・何か随分枯れた事言うのねえ・・・おじいちゃんみたいなのは口調だけじゃないんだ。筋金入りのおじいちゃん」
「やかましい。喧嘩売っとるんはどっちじゃ。好き勝手言いおって」
苦笑いしてカクは立ち上がった。
「久方ぶりに食った気のする飯じゃった。ご馳走さん。ワシャそろそろ帰る。ついでに送るぞ?」
「帰る?何で?」
心底驚いたラビュルトにカクも驚く。
「驚くような事かいな。こっちがびっくりするわ。・・・何て顔しとるんじゃ、お前さんは」
仄かに紅い眉を下げて、ラビュルトが泣き出しそうな顔をする。
カクは途方に暮れて目を瞬かせた。
「そんな顔されてもワシャよくわからん。どうしたんじゃ?」
半べそでラビュルトが鼻を擦る。細く長い端整な鼻梁が赤くなった。
「帰っちゃうの?」
「帰っちゃうのって・・・帰らんでどうする」
「今日からは帰ったらアンタがいると思ってた」
何を言うとるんじゃ、この女は。・・・ああクソ、いかん。可愛いてならん。
掌に収まりかねない形のいい小さな頭をぐいぐいと撫でて、カクはラビュルトの灰色の目を覗き込んだ。
「泣かんでもまた来るわい」
「ここにいて、おかえりって言ってよ」
「そら出来ん。ワシャお前さんの家族じゃないからの。親に挨拶した訳でもなし、けじめはつけにゃならんぞ」
「ヤる事ヤッといて何よ」
「また別の話じゃろうが、それは」
「別じゃない」
「つくづく聞かん女じゃな。可愛らしくてならん」
「アンタ、たらしの素質があるわよね。もてるでしょ」
「ふん?ワシャお前さんがたらせりゃ十分じゃ。あとは間に合っとる」
「・・バッカみたい」