第6章 我慢強い男は・・・
今まで会った誰よりラビュルトが美しいと思えるのは、初めて肌を合わせた相手への身贔屓だろうか。
「わからんのう・・・」
ラビュルトを眺めながら、カクは顔をしかめて呟いた。
「ん?どうかした?」
足首まで覆い隠すタフタドレスを纏ったラビュルトが、白木造りの素っ気ないドレッサーに向かいながら鏡越しの笑顔を見せる。
大きな口に暗いワインレッドの口紅を一息に引き、ソバカスの散った顔に淡いオークのチークをのせ、柔らかな白髪を櫛梳る姿は、無造作に美しくて見飽きない。
「・・・いや」
カクは椅子の背にかけた肘に顎をのせ、長い足を投げ出して小さなスツールに座るラビュルトの後ろ姿に見入った。
「お前さん、何で親元で娼婦なんぞやっとるんじゃ」
問われてラビュルトの白い後ろ頭が横向きに傾ぐ。
「それ、どうしても聞きたい?」
「いずれはそうなるじゃろうな。今はまだそこまでじゃないが」
「今はそこまで好きじゃないって?」
鏡の中でラビュルトが笑う。カクは真顔でそれに答えた。
「ワシャお前さんをよく知らん。知らんのに好きになってしもうたから考える事が山とある。じゃから今はそこまでじゃないと言えるんじゃ。いずれ落ち着けば、どうでも聞きたくなるときが来るわいな。気にかかっとるからのう」
「アタシが娼婦じゃイヤ?」
「そういう話はしとらん。そりゃ嬉しい事じゃないが、ワシの為に仕事を辞めろとは言わんわ。ましてワシャ今失業中じゃしな」
「職を見つけたら言って来るの、そういう事?」
「ワシャ娼婦のお前さんと会って、そのまんまのお前さんを好きになったんじゃ。虫のいいことを言う気はないわ。体を厭うては欲しいが、無理な注文はつけん」
ラビュルトは櫛を置いて、渋い顔をしたカクを振り返った。大きな口を左右に引っ張り上げるようににんまり笑い、人差し指一本の小さな投げキッスをポンと放る。
「カク、アンタっていい人。我慢強い男はそれだけで十分評価されるべきだわ」
「あまり嬉しくもないのう」
「そう?ほめてるんだけど?」
「大してそうも思えんな」
「アタシが言うんだから間違いないわよ」