第29章 水が流れ出す
「怒っちゃ駄目だよ、ボン·クレー」
カヤンは鹿爪らしくボン·クレーの側に寄った。
「カクは変わった男と親しいラビュルトに物申したいんだよ。お前も含めて。けど、それを言ってはお前をくさしてるようで角が立つんじゃないかと気遣ってくれてるんだ」
「ペラペラペラペラうっさいわ、このケトル!」
「ケトル?何?」
「はあ?沸くとピーヒャラいうヤカンよ!アンタ知らないの?柳宗理は知ってるのにケトルはご存知ない!?アァンバランスウゥゥウ!!!ちょっとアンタ大丈夫!!??」
「何でヤカンをピーヒャラ言わせるんだ?祭り用?」
「何ソレ、何言ってんの!どんな祭りよ!バッカじゃ……あらン、ちょっと、案外愉快そうねィン?やっだァん!」
「違うの?じゃ何でヤカンが騒ぐんだ?」
「沸いてるって教えてくれてんの!沸騰してっからさぁどうぞっつって!」
「沸いてるかどうかくらい見ればわかる。何を言ってるんだ、ボン·クレー。そんなものは要らないから有り得ない」
「要らなくないわよン、愉快じゃないン!?」
「要らない」
「アンタが要らなくたって要る人もいる訳!世の中には!」
「へえ」
「わかった!?」
「ふぅん。わかった」
「……」
「何?」
「…アンタ絶対わかってないでしょ」
「そんな事ない」
「じゃわかろうとしてないでしょ」
「正直私には必要なさそうだから興味が持てない」
「こ、れだから!金持ちは!どーせ召使がお湯を沸かすんでしょ!?だからケトルなんか要らないってんでしょ!?あーッ、腹立つわ!ムカつくわ!」
「お湯くらい自分で沸かせる。ヤカンに面倒みて貰う必要はない」
「はん?まぁね、アンタ自分がバカヤカンだもんねィン!」
「ははは、面白いなボン·カレーは。しかし私は幸いバカヤカンじゃなくてカヤンだから、ケトルとかいうドバカヤカンの世話にならなくてもいいんだ。ああ、良かったなあ」
「アンタ何だってそんなアチシとケトルを目の敵にすんのよッ!?ケトルだってアチシだって頑張ってンのよ!?謝んなさいよ、アチシたちに!?」
「お前こそ一体何なんだ。ケトルの身内か何かか?だとしたら悪かったよ。私の代わりにケトルに謝っておいてくれ。ついでにお前にも謝るよ」