第27章 アタシの男
カーミヤール·ヴィン·メフルラード·ヴィン·オーラン·ヴィン·ヘダーヤト。
砂漠の王国には苗字がない。基本、父の名が苗字代わりだ。祖父、曽祖父、位の高いものほど遡った男系の名を連ねて名乗る。
「つまり、長きゃ長いだけ偉い奴だってこった。ややこしいだろ」
アブサロムが口角を上げてラビュルトに腕を差し出した。
「て事は、大したお坊っちゃんてワケ?あのイル エ ミニョン(イケメン)は?」
「Mr2が後生大事に抱えてるイル エ ミニョンヌ(カワイコちゃん)もな。言ったら分不相応だぜ、ボン·クレー」
「Mr2?」
「ボン·クレーのこったよ。昔馴染みなんだろ?知らねえのか?」
「Mr?Mrなの?意外ね。Missじゃないんだ。ま、兎に角、ベンサムに分不相応なんて言葉は治外法権よ」
「ははは、治外法権か。うまいコト言いやがんな、ラビュルト。アイツがあやしてる赤ん坊の名前はマルヤム·ヴィンテ·アッバース·ヴィンテ·ターヘル·ヴィンテ·ヘイダル。な、こっちもメンドくせえだろ。そんだけ大首って事だよ。何だってこんなとこにいんだかな。曰く付きの砂漠の王族が二人も、その上おかしなお供付きでよ」
「人を首扱いすんじゃないわよ。賞金稼ぎじゃあるまいし」
「賞金稼ぎな。その心配ならボン·クレーだろ。アイツにゃベリーの値がついてる。もしかしてこれも知らなかったか?」
「…ふぅん。豪気ね。さぞ高値なんでしょう。ベンサムは安かないからね」
「昔馴染みが高値で鼻が高えか?」
「鼻が高い?ふ。鼻はアタシの領分じゃないわ」
しなやかに長い体躯を屈めて、青いガウンを羽織った少年と話すカクを見るラビュルトの瞳が若葉を煌めかせた。
こっちに気付いている。
目深く被ったキャップの下から真っ直ぐ放たれるカクの視線を真っ向から受け止めて、ラビュルトはアブサロムに言った。
「鼻が高いのは見ての通りアタシの男。最高のチャームポイントでしょ?」
楽しげなラビュルトにアブサロムは顔をしかめる。
「…お前、思ってたより世事に疎そうだから聞くけどな。そのお前の鼻が自慢の男ってのが何者なのか、お前ちゃんとわかってんのか?」
「ふん?余計な事教えてくれなくていいわよ。アタシはアタシの知ってる彼しか知らないし、それで十分。知りたい事はお互い知り合うわ。それがアタシとカクのやり方よ」