第24章 ひと粒の気持ち
「天に唾する。アラビア語じゃな。おいカヤン。大人を愚弄したらいかんぞ。目上には尊敬の念を以て接するもんじゃ。国で習わんかったか?相手が誰であれ…あー…、まあ、努力すべきじゃ」
小さな紙袋とカラーのシンプルな花束片手にカクがボン·クレーの傍らに立った。
「'abdhul qusaraa jahdi」
にやっと笑ったカヤンにカクとボン·クレーが顔を向ける。
「そうじゃ、最善を尽くせ?鼻を引っ張るぞ、生意気モンが」
「今度そのわじゃわじゃした話し方したらアンタ、マジ船にぶっ込むわよ?」
「わかったよ」
素直に頷いたカヤンに頷き返して、カクはボン·クレーを見返った。
「行くぞ。待たせてすまんかったな」
「う?ぅえぇえ!?ホントにもう終わり!?ちょ、アンタ本気ィ!?大事な買い物じゃなァい!?そんな素麺か酢の物みたくアッサリしちゃっていい訳!?ラードかバターかってくらいこってり行くとこじゃないのン、ここはァ!!!」
「やかましい、用は仕舞いじゃ。さっさと車に戻れ。赤子が起きるぞ。騒ぐのも大概にせんか」
「だって、あんな真珠一個だけのペンダントなんて、シミッタレてなあァい?もっとドカーンとズラズラッと豪華なの方がいいってばァん!ラビュががっかりしても知んないわよン?」
「そんなゴテゴテしたモンはあいつにゃ似合わん。そういうのが良けりゃお前さん、自分用に買ったらいいわ」
車のドアを開けてボン·クレーを促したカクは、ふと視線を感じてカヤンを見た。
助手席の窓に腕をかけたカヤンの訝しげな黒い瞳に視線がぶつかる。
「…何じゃ?」
「本当にそれでいいの?随分細やかだけど」
カヤンにまで言われてカクは盛大に顔をしかめた。
「これがいいと思うたからわざわざ車を駐めて貰うたんじゃ。おまけに花までつけて貰ったぞ。豪勢なモンじゃろが」
「男が女を求めるときは財力を示すのが礼儀だろう?違う?」
至極真剣なカヤンにカクは笑った。
「成る程。うん、そういうのがお前さんとこのお国柄だったな。お前さん、国の女に惚れたときにゃ、そうしてやらんといかんぞ?」
「カクはいい訳?」
カヤンの問いにカクは、困ったような、嬉しいような顔をして、すっとキャップの庇で目を隠した。
「ワシとラビュルトにゃこれが丁度じゃ」