第24章 ひと粒の気持ち
「……全くやかましいのう…」
呟いて車窓の縁に肘を付き長い指で口を覆ったカクが、フと運転席の背に手をかけた。
隣のボン·クレーに抱かれて眠るモモを起こさぬよう、気遣いながら身を乗り出す。
「すまんがちぃと駐めてくれんか」
それまで苛立ちだか笑いだか怒りだか、兎に角三人の賑やかさに顔を歪めて黙っていた運転手が、バックミラー越しにちらりとカクを見て静かに車を駐めた。
「すぐすむから待ってくれ」
運転手が無言で頷いたのを確かめて、カクは車を降りた。
「悪いが野暮用じゃ」
「なぁにィ?寄り道ィん?」
続いて降りて来たボン·クレーにカクは顔をしかめる。
「何でお前さんまで降りるんじゃ。大人しく待っとれ」
「んふ?だってィん。あそこに行く気でしょン?」
目を三日月の形に笑わせたボン·クレーがチラリと小さな宝飾店を見やる。
"une perle"
真珠の専門店らしい。
決して煌びやかではない落ち着いた雰囲気の細やかなショーウインドウに、店名を象ったような細い金鎖を貫いた一粒の真珠が、象牙色のシフォンと白いカラーの花に寄り添われて艶めいている。
「こういうときこそアチシの出番じゃなァい!?」
にやにやしながら言うボン·クレーに、車の窓から顔を出したカヤンが鹿爪らしい顔を向けた。
「カクの人生にボン·クレーの出番なんかないと思うけどな」
「え"え"!何言ってんのよぅ!アチシは今後カクの人生にガッツリ出ずっぱり!ねィん、カク……て、居ねえし!」
「もう店に入ったよ。お前がついてかなくても、カクはもう決めたみたいだ」
ショーウインドウの真珠が店員の手で取り上げられている様を目顔で示して、カヤンは興味深そうにガラスの向こうのカクを見た。
「不思議な顔してる」
「ん?」
「嬉しそうだけど困ってない?変だな。大事な相手に贈るものだろ?」
「でしょうねィん…何の為に誕生日なんか聞いて来たんだか、堪え性のない男ねィん…。鼻だけじゃなくて鼻の下まで伸びちゃってるわァ。みっともないわねィん……」
「そういう事あまり言わない方がいいよ。albasq fi alssama'」
「……何だかサッパリわかんないけど、何か失礼な事を言われたらしいのは感じるわよン?」
「うん?こっちじゃどういうのかわからないから説明出来ないな」