第23章 ドンキホーテ
「脱走の咎で追放された使用人のガキが天竜人になれるんだぜ?凄え話じゃねえか?」
「アタシはアタシを…アタシと母さんを海に捨てた父親のとこに帰りたいなんて思わない。贅沢な暮らしも高貴な立場も下らない結婚話も、子供を海に流すような馬鹿な父親も!みんなクソ食らえよ!」
ラビュルトは賑やかなピンクの羽毛に埋もれてにやつく顔を見下ろして、眉をひそめた。
「海賊崩れの元天竜人なんて、変わり種の七武海ね。名前まで変わってる。…名前…何だっけ?スゲーダチョウ?モロハゲタカ?…フッ、こんなんよね?確か」
骨太い大きな手が空を切って、ラビュルトの頬を容赦なく打ち払った。なぎ倒されるような格好で、ラビュルトの体が傍らのソファにもんどり打つ。
「馬鹿にするなよ。お前みてぇな田舎モンの娼婦にでけえ口叩かれる筋合いはねえ」
立ち上がって高みからラビュルトを見下ろし、ドフラミンゴがぐうっと口角を上げる。ラビュルトは口元の血を手の甲で拭ってにんまり笑い返した。
「その田舎モンの娼婦がアンタのイトコよ。アンタが教えてくれた事なのに、忘れちゃった?アタシのイトコは服の趣味だけじゃなくて、頭まで良くないみたいね。ガッカリだわ」
「威勢のいい女は嫌いじゃねえ。母親似の見れた面ァしてやがるのも気に入った。その上お前は運がいい」
ドフラミンゴは面白そうにラビュルトを眺め回し、そのつんと形の良い顎に手をかけて顔を上向かせた。
「俺は身内には寛大な男だ。それが例え立場も弁えねえ田舎モンの娼婦でもだ」
「身内に寛大?ふうん。立派じゃない?家族を上から見渡してんだ、アンタは。アタシも身内は大事よ。寛大かどうかは知らないけど、兎に角大事だわ。でも、アンタはアタシの身内じゃないからハッキリ言っとく。アタシ、アンタが大ッキライ」
ドフラミンゴの膝が上がった。ラビュルトが歯を噛み締めて腹に力を入れた瞬間、ドフラミンゴの膝頭がラビュルトの腹に強烈な勢いで入る。
「…カハ……ッ」
柔らかいソファの緩衝も追いつかないダメージに、ラビュルトの口から飛沫が飛んだ。
「馬鹿な女だな。イトコが身内じゃねえ?フッ。口に気を付けろ。お前は確かに半分は俺の身内だが、残りの半分はゴミだ。そこのところをどうするかは、これからのお前次第なんだからよ?よく覚えとくんだな、ラビュルト宮?」