第22章 予定変更
「んーぷ。あぅぷう!」
ベビーベッドから甘えるような声が漏れた。
小さな足がベッドの縁を飾るフリルをしゃわしゃわと掻き分けて空を蹴っている。
「あらぁん、ベベェん!退屈しちゃったン?ごめんねィん!」
カクをドカンと突き飛ばして、ボン·クレーがベビーベッドに張り付いた。
「ぶう、ぶうわ!ぁわ!」
抱き上げられたモモは、柘榴石のような目を輝かせてボン·クレーの前髪を引っ張った。
「そうねィん。おめかしの時間よン!今日は特別キレイにしちゃうわよーン!嬉ちいでしょン?んふふふふふッ」
「……何なんじゃアレは?母親にでもなった気か?」
食卓を片付けながら呆れ顔をしたカクを、トーブの裾に手を潜らせたカヤンが斜めから掬い上げるように見上げた。
「ボン·クレーはジンに導かれてモモの護り手になったんだ。モモに奇跡が起きるまで二人は一緒だ」
「奇跡?何の話じゃ」
重ねた皿を押し付けられて顔をしかめるカヤンを見下ろし、カクが眉を上げる。
「モモは特別なベベなんだよ。悪魔の実を食べちゃったから、奇跡が起きるまで赤ん坊のままのべべだ」
「悪魔の実ィ?」
カクの声が尻上がりになる。
「能力者じゃってのか?あの赤ん坊が?まさか」
「本当だよ。モモは自分と自分の護り手の時間を止める。信じないかも知れないけれど、モモは私の叔母だ。多分あなたより年上だよ、彼女は」
カヤンは肩をすくめて食器を重たげに持ち直した。
「そういう私も、モモの護り手を二年務めたから本当は見た目よりもう少し大人なんだ。……私は、十五には見えないだろう?」
恥ずかしさと悔しさがごたまぜになったような表情を浮かべてカヤンはツンと顎を上げた。
「ほう。お前さんが大人びて見えるのはそのせいか」
カクが何ということもない様子で返した言葉に、カヤンの顔がパッと明るくなった。
「そう思う?」
「思いもせん事は言わん」
「ふぅん。そう」
きゅっと口を引き結び、食器をキッチンに運びながらカヤンは前を見たまま声を低めた。
「…おだてられたから言う訳じゃないけど、あなたは話を聞く耳があって物を見る目のある人だね」
「はあ。ワシャお前さんをおだてたつもりはないが、そら、まあ、褒められとるんじゃよな?」
「耳と目を持つ者は数多いが、それを本当に使うものは少ない」