第22章 予定変更
シンクに食器を置いて、カヤンは改めてカクを見た。
「ボン·クレーもその多くない者の一人だよ。私はあなたを信用して、私たちをあなたに委ねよう。ボン·クレーにそうしたように」
「期待して貰っちゃ困る。ワシャお前さんらを抱え込むつもりはないわい」
「そんな必要はないよ。一度溢れた水は砂に吸われて収まるまで止まらない。あなたはただ水を零してくれさえすればいいんだ」
カヤンは人の悪い顔で笑って、トーブの裾から出した手を肩口からスッと斜めに滑らせた。
「後はジンのお導きに依るだけ。水の遺した道のまま、機を逸せずに動けばいい。それはあなたも同じ事」
それから腕まくりをして、食器を洗い始める。
「ワシャお前さんらの神様の事はよくわからん」
キッチンの入り口に立って、キャッキャッと笑うモモをあやすボン·クレーを不思議そうに見ながら、カクが顔をしかめる。
「あれもそう信心深そうには見えんが、そのジンとやらに護られとるんか。守備範囲の広い神様じゃのう」
「さあ。ボン·クレーはどうだろう。彼にはオカマの神様でも憑いてるんじゃない?」
カヤンが可笑しそうに言う。
「誰でも護られてはいるんだ。それをどう活かすかは本人次第ではあるけれど」
「自分の事は自分でという事じゃろ。その方がわかり易くていいわい」
「どう捉えるかも本人次第だよ。けれど私達ジンの民は神がいる事を知っている。だから祈る」
カヤンは濡れた皿を拭きながら生真面目な顔をした。
「神のご加護を」
「信心深いのは良い事じゃ。信心は人を謙虚にするからのう」
カクはキャップの庇を下げて口角を上げた。
「じゃがワシャ神には祈らん。自分を信じるだけじゃ。そしてワシの大事なものの為に動く。ぶっちゃけ今のワシは好いた女と仕事の事で頭がいっぱいなんじゃ。さっきも言うたがあまり期待されても困る」
「素敵なタイだね、カク」
シンクの食器を洗い終えたカヤンが無邪気に笑った。
「不意のパーティにも恥ずかしくない格好だよ。今日の予定は?」
「……食えんガキじゃな…」
「全ての事には意味があるんだ。予定変更、上等だろ?あなたがそんな格好をしたくなった事も偶然じゃないのかも知れない」
仏頂面のカクに、カヤンは更ににっこりする。
「あなたのファム·ファタールに会うのが楽しみだな」