第67章 ※十四松とファンファーレを 五男END
「なぁ、せっかくだから吹いてみてくんない?」
おれがそう言うと、
「そういえば聴いたこと無かったな。オレからも頼む」
「僕も…聴きたいです!」
「……おれも」
「ステキな音色…聴かせて欲しいな」
みんな便乗してきた。
十四松は何故かバットを持ち素振りを始めた。
嬉しそうに素振りを見ている主ちゃん。
「いやお前、このタイミングで素振りとかおかしくない?」
「チョロ松くん、その素振りはきっと、『ラッパ吹いてー』って合図なんだよ」
「え?そ、そうなの?」
「うんっ!…苦情きたら、ゴメンね」
主ちゃんが楽器を構えた。
さっきまでの優しくてフンワリした雰囲気は何処へやら。
その洗練され、磨きのかかったプロのオーラにより、松野家の居間はコンサートホールへと変貌を遂げる。
深く息を吸いこめば、唇から輝かしいファンファーレが紡がれた。
とてもプラスチックの安物とは思えない音色だ。
俺たちは、息を飲んで主ちゃんの演奏に聴き入った。
マジで惚れそうだった。っつーか惚れた。
澄んでキラキラして磨き上げられた音色は、クソニートな俺らですら分かるくらい見事だった。
十四松はニコニコしながら、ファンファーレに合わせて素振りをしている。
あぁ、そうか。
これが、お前と主ちゃんの絆なんだな。
俺たちには入り込めない、二人が創り上げた、二人だけの世界。