第67章 ※十四松とファンファーレを 五男END
時刻は夕方の五時。
ドイツに旅立つ一週間前、十四松くんにお呼ばれしたわたしは松野家にやって来た。
やっては来たけれど…。
(こ、これは一体…)
玄関のドアの上に掛かっている横断幕に言葉を失う。
そこには、でっかい筆文字で『おいでませ主ちゃん』と書かれていた。
書いたのは、豪快な筆使いからして十四松くんだろう。
うん、十四松くんしかいない。
正直、もの凄く恥ずかしいけれど、彼らしくて笑みが溢れた。
うおぉぉぉー!とか吠えながら筆を滑らす様子がすぐに頭に浮かぶ。
あの笑顔に会いたくて、ワクワクしながらチャイムを鳴らした。
すると、
「わっせわっせわっせわっせ!!」
愉快な声が廊下をバタバタ走る音と共に近づき、
「いらっしゃいまセンターライーーン!!」
引き戸が開いたかと思うと、元気な笑顔がわたしを出迎えてくれた。
パーカーのダボダボでパタパタ手招きをしている。
「あがってあがってーー!!」
「おじゃまします!」
手を引かれ、居間の前まで来ると立ち止まる十四松くん。
「実はねー、ここでみんながクラッカーを持って主ちゃんを驚かせようとしてんだー」
「そうなの?でも、それってわたしに言っちゃいけなかったんじゃないかな?」
「だから逆にぼくが驚かせるね?」
「??」
そう言うと、十四松くんはうずくまり、頭から湯気を立て始める。
「十四松くん?」
「主ちゃん、襖開けてー」
「わ、分かった!」
わたしが襖を開けたタイミングでクラッカーが鳴り響いた。
その時——十四松くんの身体がメキメキと巨大化する。
『主ちゃん!留学おめ「ボーーーゥエッ!!!!」
『ギャーーーーーッ!!??』
…三メートル級巨人になった十四松くんが、おめでとうを恐怖の叫び声へと変える。
十四松くんはいつも軽々とわたしの、いや、人類の常識を超えていく。
こうして、奇想天外な壮行会が始まった。