第67章 ※十四松とファンファーレを 五男END
主人公視点
今回の留学は、わたしに訪れた最大のチャンスであり挑戦だった。
ずっと憧れていた海外留学。
お金もツテも無く諦めていた。
念願だったプロの楽団員になれたし、このまま日本で勉強しながら演奏活動を続ければいいと思っていた。
けれどある日、学生時代から今もレッスンをしてくれている師匠が、推薦するから応募してみろと文化庁の募集要項をくれた。
それが、留学のキッカケだった。
わたしが選考に選ばれた新進音楽家海外研修制度とは、簡単にまとめると、文化庁に認めてもらえた音楽家が、留学にかかる費用を工面してもらえる制度だ。
なので、原則的に日本への一時帰国は認められない。
お金を払ってもらう分、きちんと実績を上げなければならないのだ。
そして、数々の国際音楽コンクールに挑戦し、結果を出して帰国しないと、楽団を辞めるわたしに演奏家としての未来はない。
クラシック音楽業界は、それほどシビアな世界なのだ。
代わりなんていくらでもいる。
やっと掴み取ったプロの楽団を辞めるのは苦渋の決断だった。
留学先のドイツでは既にホームステイ先も決まり、師匠の知り合いである大学教授も紹介してもらっている。
怖いけれど、不安だけれど、もう逃げられない。
自分のさらなる目標の為に、前に進むって決めたんだ。
でも。
唯一の心残りは…十四松くん。
せっかく仲良くなれたのに、はなればなれになってしまう。
二年という長い年月を、彼は待っていてくれるだろうか。
もしかしたら、待ちきれず他に好きな子を見つけてしまうかもしれない。
わたしのことなんて忘れちゃうかもしれない。
十四松くんの心が離れてしまっても、わたしにそれを無理やり繋ぎ止める術もなければ権利もない。
相談もせず留学を決めたのは、わたし自身なのだから。
ねぇ十四松くん。
わたし達、どうなるんだろう?
十四松くん。