第65章 ※ライジング思考スキーと呼ばないで 三男END
「おいっ、おそ松」
カラ松兄さんを無視し、一度だけ小さく舌打ちをしたかと思うと、おそ松兄さんはカチャッと乱暴に箸を置き立ち上がった。
「チビ太、つけといてー」
胸の奥がズキリと痛む。
「おそ松兄さんっ」
立ち上がり名前を呼ぶ。
けど、返事はない。
「ね、ねぇ…っ」
「うーー、さぶっ」
僕を無視し、のれんをくぐり歩き出す。
「おそ松兄さん!!僕…!」
言いようのない感情が込み上げて、思わず背中に向かい叫んでいた。
「僕、頑張るからっ!だから…!」
赤いパーカーが、どんどん暗闇に飲み込まれていく。
「おそ松兄さんも…!!」
そう言いかけると、カラ松兄さんに肩をポンと叩かれた。
「…ほっとけ」
「で、でもっ!」
背中が遠くなる。
(どうして…)
おそ松兄さんは、一度も振り返ることなく夜の街に消えていった。
「さぁ、オレ達だけで乾杯するぞ!準備はいいかいブラザー&チビ太ぁ?チョロ松の新たな門出を祝し、そして!数多の試練を乗り越え」
「就職おめでとー!!かんぱーーいっ!!」
『かんぱーーいっ!!』
「えっ」
—カチャンッ!—
トド松の乾杯の音頭で、僕らはグラスを鳴らした。
みんな、おそ松兄さんには触れず、明るい声で話しかけてくる。
「だけどさー、チョロ松兄さんひとりぼっちで夜眠れるかなー?」
「いや、お前と一緒にしないで」
お前こそ夜中のトイレ、僕の付き添いなくて大丈夫なのかトド松?
「……事故物件じゃない?」
「怖いこと言うなっ!!」
懲りずにホラー要素満載な一松。
「一人に飽きたら、ぼくと野球しよーね!!」
いつも通りな十四松。
「チョロ松よ、オンリーロンリネスライフに辛くなったらいつでも相談にのるぜ?」
お前は何でそんなにイタイんだカラ松。
みんな、ホントにバカばっかり。
だけど、そんなみんなの優しさが、胸の中にじんわり染み込んでいく。
優しさが寂しさを染み渡らせる。