第65章 ※ライジング思考スキーと呼ばないで 三男END
大丈夫。
落ち着け。
今日の挨拶だって、ノートに書き溜めた台詞一つも言えなかったけれど褒めて貰えたんだ。
真面目で誠実そうな青年だって。
うん、大丈夫大丈夫。
僕ならどんな場面だって切り抜けられる。
みんなだって喜んでくれるはず。
よし決めた。
このこんにゃくを食べ終わったら話す。
就職して家を出るって話す!
「チョロ松にーさーーん!」
「っどぅわっち!?なな、何!?」
こんにゃくが口からスルリと逃げた。
「その荷物なーにー?」
十四松が僕の足元にある紙袋を、だぼだぼな袖で差した。
「ああ…これ?これは、主ちゃんが就職祝いにネクタイくれたんだ」
「しゅうしょくー?」
「あ……!?」
なんてこった…。
サラッと言っちゃったよ!?
ずっと悩んでいたのに!!
狙い澄ましたように自然にサラッと伝えちゃったよ!!
今までの葛藤は何だったんだ!?
すると、隣に座る一松がいつもの半眼をちょっとだけ見開いて話しかけてきた。
「それ…夢の話?」
「違うわっ!げ、現実…だよ。実は、父さんの知り合いの会社に、就職が決まったんだ」
「……マジか」
「ちょっとちょっと!それいつから!?」
右端に座るトド松が、身を乗り出して満面の笑みを僕に向けてくる。
「えっと、来週から。今週末家を出で寮に入るんだ」
「家出るの!?もう、水臭いなぁチョロ松兄さん!早く教えてよっ!」
「水が臭いぜっ!!」
「十四松、その言い回しちょっと違う」
みんなに就職に至った経緯を話していると、カラ松兄さんが立ち上がった。
「フン!ならば乾杯をやり直さないとな!!ブラザー!そしてチビ太!ビールを持つんだ!」
「てやんでぇっ、オイラからの餞別だ!おめぇら今夜は好きなだけ飲めバーローコンチキショー!!」
『おぉぉぉおーー!!』
みんなでチビ太に拍手喝采だ。
「おそ松、お前もグラスを持て」
「……」
おそ松兄さんは、一人黙々とおでんを食べ続けている。