第56章 お前がいないとだめなんだ カラ松
真っ暗な部屋でスマホを見る。
まだ夜の十一時。
毛布に潜り込み眠るミウをそっと撫でる。
カラ松くんに出会ったばかりの頃は子猫だったけれど、すっかり大きく成長し、大人のおすましさんになった。
そんなミウの隣で寝返りを打つ。
何もする気が起きず、早めにベッドに入ったはいいものの…。
カラ松くんの事を思い出しては胸が締め付けられ、寝付けない自分がいた。
うなだれて頭を枕に突っ伏すと、涙で枕が湿っていく。
あの言葉を言われたのはいつだっけ?
一週間前くらい?
いつもみたいに、仕事終わりに待ち合わせして家に来て…。
わたし、知らず知らず何かしたのかな?
カラ松くんが嫌がることを…。
どうして、急に思い詰めた表情で距離を置きたいなんて言ったんだろう?
わたしがどんなワガママを言ったって、いつも笑ってくれていた。
仕事が辛くて泣いた時は、泣き疲れて眠るまでずっと抱きしめてくれた。
些細なことで怒っても、愛がどーのこーの言って受け止めてくれた。
わたしの全部を包み込んでくれた。
優しくて深い彼の愛情に、わたしは甘え過ぎていたのだろうか?
それが重荷になっているとも気づかずに…。
理由をきちんと教えてくれなかったということは——他に好きな人でも出来たのかな?
それかわたしに嫌気が差したとか。
それならそうとハッキリ言って欲しい。
いや、優しいから言えないか。
(喉渇いちゃった…)
枕から顔を上げた。
どうせ眠れないなら、散歩がてら自販機に行ってこよう。
わたしは、部屋着の上に分厚いニットのカーディガンを羽織った。
小銭をポケットに入れて玄関のドアを開ける。
「主…」
(!!)
鍵をかけていると、アパートの通路から、あの声が聞こえてきた。
「カラま……ーーーーっ!!」
思わず振り向いたわたしは、声にならない悲鳴を上げた。
目の前に、傷だらけで壁に寄りかかるカラ松くんがいた。