第56章 お前がいないとだめなんだ カラ松
ハロワに張り込んで一時間が経過…。
ブンッブンッ
「出てこいやーっ!!」
「十四松兄さん…飽きたからって一松兄さんで素振り始めないで…泡吹いてるし」
「ええーー?」
「いや、とりあえずボクにぶつからなければ、もう何でもいいや…」
ため息をつくトド松を尻目に、ハロワの入り口を見ていると、見慣れたジャケットが目に入った。
「おい十四松ストップ!出てきたぞ!」
僕がカラ松兄さんを指差すと、ようやく素振りが収まった。
五人で息を潜めて観察する。
俯きトボトボと歩くカラ松兄さん…。
「…微妙だったのかな?」
「あーあ、世界中の不幸を背負ったような顔しちゃって。俺と遊んでくれなかったからあーなるんだよ」
「家と方角違うけど、次はどこ行くんだろう?」
カラ松兄さんの寂しげな背中を見ていると、また後ろで弟達が騒ぎ出した。
「ちょっと!十四松兄さん素振り始めないでってば!!」
「野球しようよー!!」
「十四松!飽きたなら一人で河川敷でも行ってこい……って、みんな隠れろっ!」
マズい。
カラ松兄さんが振り返った。
咄嗟に建物の影に隠れる。
(チョロ松がうるせーから怪しまれた〜)
(俺じゃねーしっ!!どう考えても素振りだろ!?)
(チョロ松にーさんシーーッ!!)
(だから何で俺!?)
くだらない小競り合いをしばらく続けていると、十四松が一松を担いで歩き始めた。
「十四松兄さん!今出たらバレるよ!?」
「でももういないよー?」
「え?」
いつの間にかカラ松兄さんの姿が消えていた。
「もーチョロ松!さっきからいいかげんにしろよ!お前がしつこく絡んできたから見失っただろ!」
「もうやめよう!?いいかげん僕のせいにするのやめよう!?」
「十四松兄さんどこ行くの?」
「カラ松兄さんのとこー!!」
…そういえば、十四松って死ぬほど鼻が効くんだっけ。
僕達は、十四松の鼻を頼りにカラ松兄さんの次の行き先へと向かった。