第55章 ぼくだって甘えたい… 一松
ソファーに座ると、一松くんは寝ぼけながらまた甘えてきた。
わたしの膝に頭を乗せて、お腹に顔をピタッとくっつけている。
そんな彼の頭を、わたしはずっと撫でてあげていた。
「ふふっ、一松くんて猫みたい」
「…んーー」
(か、かわいい…)
背中をトントンしてあげると、気持ちよさそうに一回伸びをしてまたくっついてきた。
「…主」
「なあに?」
「……ぼく」
「うん」
「……ずっと片思いしてた」
「……え?」
「店で初めて見た時から…主の事、ずっとずっと……」
(初めて見た時から…?)
そんな事今まで一度も言われなかった。
ずっと、好きになったのはわたしからだと思っていた。
一松くんはわたしのヒーローだったんだ。
決して自分から正体を明かそうとしないひとりぼっちのヒーロー…。
そんな彼を…気付いたら好きになっていた。
「見てるだけでよかった。傷つかないし、失う事も無いから…」
「でも、それじゃあ寂しいよ」
「…寂しかったけど…それよりも怖かった。自分なんて仲良くしてもらえるはずないって思ってたから…」
すがるように、腰を抱きしめる腕に力が込められる。
どうしよう。
酔って無意識な時に、本音を聞くなんてズルい。
誰だって、人に知られたくない自分が内面に潜んでいるはず。
ましてや一松くんだ。
普段人一倍自分を隠しているのに…。
「だから…うれしいけど怖くて」
眠たげにわたしを見ている一松くんの頬を、両手で包み込む。
「…主?」
「だいじょーぶだから…ねっ?言わなくても分かってるよ」
「ん……」
「不安にさせないから…」
安心したのか、再びわたしのお腹に顔をうずめている。
と思ったら、
—ガサッ—
「ちょ、ちょっと!」
ニットの中に顔が潜り込んできた。