第55章 ぼくだって甘えたい… 一松
「……ねぇ」
「な、なあに?」
「…さっきの約束は〜?」
「へ?あぁ…頭ナデナデねっ!ちゃんと起きて偉かったねー!よしよし!」
「ん……」
左手で頭を撫でてあげると、嬉しそうに目を細め喉をゴロゴロ鳴らしている。
普段こんな事したら、絶対照れて逃げ回る。
んん?
…ゴロゴロ!?
……いや、いくら猫好きだからって…それは…ねぇ?
試しに顎の下を触ってみたけれど、喉は鳴っていなかった。
やはり気のせいだったようだ。
キョトンとする彼に悟られぬよう話しかける。
「えっと、今日はどうする?帰るの?」
「……ばか?」
ピタリと足が止まり、不意に抱きしめられた。
アルコールと一松くんの匂いが一瞬鼻をかすめ、わたしを包み込むパーカーからは、さっき食べた炭火焼きの香ばしい匂いがする。
「一松…くん?」
「…帰るわけないでしょ」
「……うん」
「ぎゅーーー」
言葉通りぎゅーっとキツく抱きしめられる。
「ふふっ、苦しいよっ」
「主…はやく家行こ?」
耳元で優しく呟かれた。
普段とのギャップがありすぎて、さっきから翻弄されっぱなしだ。
「分かった!分かったから一旦ハグは終了っ!」
「え、なんで?」
酔っ払うと、こんなに甘えん坊になるなんて知らなかった。
という事は、普段どれだけ甘えたい自分を押さえ込んでいるのだろう?
勿論、無自覚だとは思うけれど…。
わたしが腕の中からどうやって抜け出すか悩んでいると、
「んー?そこにいるのは一松と…主か?」
このタイミングで、あの人に出くわした。
「カ、カラ松くん!?」
「……チッ」
抱き合うわたし達の目の前に、青いパーカーが見えた。