第53章 番外編 秘密の放課後 F6一松
木陰へと連れて来られると、おそ松くんはわたしを木にもたれ掛けさせ手をついた。
これは…天然なのかワザとなのか。
至近距離にいるおそ松くんからは、薔薇のような甘い香りがした。
こんなカッコいい人が目の前にいたら、誰だって胸がときめいてしまう。
わたしはドキドキを悟られないよう必死だった。
「あいつと……一松と何があった?」
「な、何がって?」
「最近、あいつの元気が無いんだ。昨日の収録なんて、歌の振り付けを二回も間違えた」
「そうなんだ…」
おそ松くんは爽やかな笑顔を向けてきてはいるものの、瞳はとても真剣だった。
一松くんを心から心配しているのが伝わる、そんな瞳だ。
「あいつはさ、自分の胸の内を人に話さない。でも、人一倍傷付きやすくて繊細なヤツなんだ。一人が好きでマイペースなんて言われているけれど、それってつまり、人に深入りして傷つくのが怖いだけなのさ」
「おそ松くん…」
やっぱり鉄壁のリーダーはすごいと思った。
兄弟の事を、きちんと理解し考えているからリーダーが務まるんだ。
ただ長男だから、という訳では決してない。
「一松が何も言わなくても僕には分かる。あいつは今とても苦しんでいる。キミの事でね」
「だけど、あの時なんにも言ってくれなかった!違うって否定してくれなかった!!」
「…僕に全て、話してごらん?」
澄んだ瞳が覗き込むようにわたしを見つめてきた。
そんな瞳を向けられては、話さずにいられなかった。
「実は——」
一週間前の事を話し出すと勝手に涙が目尻に溜まる。
おそ松くんは、指で優しく涙を拭き取ってくれた。
「そうか…そんな事が…」
「追いかけてきたけれどはたいちゃって…それから気まずくてずっと話していないの…」
「やっぱり僕の予想は当たったな」
おそ松くんは、わたしの髪を撫でるとふんわり微笑んだ。