第53章 番外編 秘密の放課後 F6一松
彼氏である一松くんとは同じクラスだけど、教室では一言も話さない。
廊下ですれ違っても一瞬目配せするのみ。
国家レベルの人気を持つ彼に恋人がいると知れたら、校内では収まらず国中大騒ぎになるだろう。
というか、わたしの命の保証が無い。黒魔術とかワラ人形で呪われそうだ。
つまり、二人の関係は決して明るみに出てはならないのだ。
学校だけでなく、テレビや街の看板、電車の広告…至る所で見かけるスーパーアイドルF6…。
そして、その内の一人である一松くん。
引く手数多な一松くん。
不安にならないと言えば嘘になる。
寂しくないと言えばただの強がりだ。
なんでわたしなんかが…っていつも思う。
そんな不安を払拭させてくれるのは、二人きりで過ごす放課後だけだった。
多忙な彼が、時間を割いてわたしと過ごしてくれる唯一のひととき。
「主…今日いいか?」
「うん…」
すれ違いざまに交わす秘密の約束。
・・・
放課後、胸を弾ませながら秘密の待ち合わせ場所である校舎裏へ行ったけれど、一松くんはなかなか来なかった。
(どうしたんだろう?コンサートツアー控えてるみたいだし、急用でも出来たかな…)
秋が深まる十一月、かじかむ手を吐く息で暖めながら、わたしはひたすら一松くんを待つ。