第52章 番外編 神松育成ストーリー(読切逆ハー裏)
「いってきマッスルマッスルー!!ハッスルハッスルー!!」
一松が家に帰って来ると、十四松は野球のユニフォームに着替えて出かけて行った。
どうやら、わたしを一人残して出かけるのを悪いと思ってくれていたようだ。
親は出かけていると聞いたので、おにぎりのお皿を下げに台所へと向かった。
すると、玄関の扉の向こうから、おそ松とカラ松の声が聞こえてくる。
(帰ってきてたんだ…)
声をかけようとお皿を洗ってから玄関に向かうと、
「やめようだぁ?お前、自分が主ちゃんを独り占めしたいだけだろっ!」
「だが、このままじゃ主とオレ達六つ子は…いやオレは…ダメになるっ!」
(…何を話しているんだろう?)
わたしは、廊下の影に隠れながら二人の会話に聞き耳を立てた。
「変わりたいんだっ!抜け出したいんだっ!!…初めて守りたいものが出来たんだっ!!」
「ふざけんなっ!!お前だけじゃねーんだぞっ!!みんなあいつに惚れてんだ!!」
(!!)
胸が抉られたみたいに痛くなった。
にわかには信じられなかった。
「なん…だと…?」
「もう俺、どうしたらいいか分かんねーよ。俺だってあいつが好きだ!でも、俺が動けば弟達が傷つく!どうすりゃいいか分かんねーから、ヤルだけヤッて満足しているフリをしてたのに…!」
「おそ松…でもオレは…主を…」
「きっとな…誰か一人でも惚れちまった時点で、こんな暮らしはお終いだったんだ。一番良いエンドは、あいつと俺ら全員が完全に縁を切る事。ホントはお前だって分かってんだろ?」
(縁を切る…みんなと…カラ松と——)
わたしは、音を立てず二階に戻った。
わたしもどうすればいいか分からなかった。
身体だけの仲だと思っていた。
そして、元気になったら都合よくサヨナラしようと思っていた。
ならばおそ松の言う通り、このままみんなと縁を切るのは一番の正解だったはずなのに。
なのに何故…こんなにも胸が苦しいのだろう。
こんなにも痛くて辛いのだろう。
—ガラッ—
部屋に戻ると、膝を抱えて床に座り込む一松がいた。
一松は気だるげな表情だったけれど、鋭い眼光がわたしの内面を見透かすように見つめていた。