第52章 番外編 神松育成ストーリー(読切逆ハー裏)
——ごめん、婚約は無かったことに——
別れは突然だった。
いつものように仕事を終え家に帰ると、書き置きだけ残し彼氏の荷物が跡形も無く消え去っていた。
十年間付き合った彼氏だった。
中学時代の甘酸っぱい恋から始まり、青春時代を全て彼と過ごし、将来を見据えて就職、貯金、同棲。
馬鹿みたいに彼に全てを捧げた十年が、音を立てて崩れ去った。
共通の知人に聞いた話では、わたしの五つ下の女と交際を始めたそうだ。
お互いの両親に挨拶を済ませ、式場選びに胸躍らせていたあの日々は何だったのだろう。
勝手に絆を深めていると思っていた喧嘩や言い争いは、わたしの知らない所で二人の関係を破滅へと導いていた。
終わりを告げるベルが頭に鳴り響いても、不思議と涙は出なかった。
ただ、心がズシリと重たくなった。
重くなって息苦しくなって…立っているのも辛いくらいで…。
わたしは、仕事を一週間休んでしまった。
親友はわたしを気づかい、彼が出て行ったアパートの引っ越し作業だけでなく、数日間泊まり込んでわたしと過ごしてくれた。
でも、そんな心優しい親友との時間ですら、わたしの心の傷を癒す事は出来ず…(非常に身勝手なのは重々承知だ)。
アルコールだけがわたしを慰めてくれた。
酔う事だけが、何もかも忘れさせてくれたのだ。