第42章 番外編 F6 おそ松とお嬢様
初めて食べる、あつあつのおでん。
「あつっ!」
「こらこら、がっついたら可愛らしいレディが台無しだよっ」
目の前で輝く黄金色のつゆの中、さまざまな種類のおでんが仲良く並んでいる。
これが、念願だったつゆだく大根。
「チビ太さん、とても美味しいです!」
「ケケッ、そいつぁーよかったなぁ!」
「おそ松、これは何という食べ物です?」
「それはちくわぶだね」
ちくわぶをハフハフと食べていたら、おそ松が頬杖をつきながらジーッとこちらを見ている。
「あの、食べ方間違っていますか?」
「……あっ、見とれちゃってたよ…ごめんね」
「えっ?」
トクンと胸が強く脈打つ。
おそ松は、そんなわたしの頬を、一瞬だけ指先で触れて微笑んだ。
胸が苦しい。
この感覚は、一体何?
「どうしたの?箸が止まってるよ?」
「あ、あの、熱くて」
「ならこれでどう?」
「えっ、そんな…っ!」
おそ松の箸が、わたしのお皿からおでんを攫い、フーフーする。
そして、冷ましたおでんを、そのままわたしの口へと運んでくれた。
噛めばじゅわっとつゆが口内に溢れ出す。
感動して思わず頬に手を当てる。
「ホント、美味しそうに食べるね。これはね、がんもどきって言うんだよ」
「は、い…あの、美味しいですが、これじゃあまるで子供みたい」
「今日くらい甘えたっていいじゃない?ほら、沢山食べて。チビ太、はんぺんちょうだい」
「あいよっ!」
おでんがこんなに美味しいだなんて。
この味を知らないであろうお父様が気の毒だわ。
部屋で塞ぎ込んでいたのが嘘みたい。
外の世界にはこんなにも喜びが溢れているのね!
「ありがとう、おそ松」
その名を呼ぶだけで胸の奥がツンとする。
もしかして、この胸の苦しみは、おそ松に触れたい、触れられたいと思うこの気持ちは…。
これが——「恋」というものなのかしら。
突然現れ、退屈な毎日からわたしを連れ出してくれた貴方とずっと、こうしていたい。
家になんて帰りたくない。
このまま…二人で——。
「もっと派手なところに連れて行こうと思っていたけれど、満足かい?」
「ええ…美味しくて温かくて…幸せです」
わたしは、あっという間に彼に惹かれていった。