第41章 番外編 F6 十四松先生と二重奏を コーダ
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卒業式を終え、わたしは楽器を持ち一人で音楽室の扉を開く。
「待ってたよ。卒業おめでとう」
ポロンとピアノが鳴り、優しい声に出迎えられた。
カーテンが風に揺らめき、ガラス越しの日差しは、少し肌寒い春の陽気と共に、音楽室をどこか懐かしい光でふんわりと覆っている。
陽の光が先生の金髪をきらめかせ、見惚れるほど美しかった。
松野先生は立ち上がると、すぐさまわたしを抱きしめる。
わたしを包む、先生の匂いと声。
卒業式のステージ上では見せる事のなかった、甘く温かな微笑みにトクンと胸が鳴る。
「卒業まで待てなくて、彼氏作ったかと思っていたよ」
「ううん。寂しい時一緒に演奏してくれたから…」
「…ぼくも寂しい時は、曲をずっと書いていた。ねぇ、やっと最終楽章が出来たんだ!早速演奏しよう!」
ニコニコしながら、難しそうな楽譜を手渡してきた。
「な、なんだかゴチャゴチャしていてすごい譜面ですね」
「なんかねー、いろいろ詰め込み過ぎちゃった!ベルリオーズのイデーフィクスをヒントに、キミの主題がてんこ盛り!!」
「いでーふぃくす?」
先生曰く、わたしをイメージした短いメロディが、楽章の中何度もピアノとトランペットにより演奏されるらしい。
現代ではお決まりな、映画やゲームでのキャラクターを表すメロディは、ロマン派当時ではとても斬新な発想だったとか。
ただ、映画やゲームと違うのは、視覚的なものが一切無く、音でのみ表現しているという所だろう。
「主、始めよう?」
先生はピアノ椅子に座り、照れ臭そうにニッコリ微笑んだ。