第40章 番外編 F6 十四松先生と二重奏を 第三楽章
涙を拭い、真っ直ぐ一松くんを見つめる。
「一松くん…」
名前を呼ぶと、一松くんは怯えるような瞳をわたしに向け、手を止めた。
分かっていた。
心根が優しい一松くんは、きっとやめてくれる…と。
わたしは、ずるい。
「…ごめんなさい」
途端、一松くんは深い悲しみの色をその顔に宿した。
「なんだよ…それ…」
「わたしね…」
流れる涙を無視して、一松くんの瞳の奥を覗く。
今日のわたしはいつにも増して泣き虫だ。
「…ずっと前から、大好きな人がいるの」
「やめろ……」
「わたし、松野せ」
「言うなっ!!言わないでくれっ!!」
一松くんはわたしに向かい、初めて感情的な声を発した。
そしてそのまま、まるで子供みたいにわたしの胸に顔をうずめる。