第40章 番外編 F6 十四松先生と二重奏を 第三楽章
「お前が…ずっと好きだった。好きだったのに…」
「ごめん…」
「お前と過ごす時間が、何よりも…楽しくて…」
「ごめん…っ」
気の利いた言葉なんて、何も浮かんでこない。
「お前の笑顔が…ただ見たくて…」
「…うん」
「その笑顔を守る…ただ一人の……ナイトに……っ!」
胸に温かい雫がポトリと落ちて肌を濡らした。
どうしようもないやるせなさに、わたしも涙が止まらなかった。
未熟な今のわたしには分からない。
恋と友情の境界線って何なのだろう。
どうして、そんな曖昧なもので、大好きな人を傷つけてしまうのだろう。
二人の間には、三年間で築き上げてきた確かな絆があるはずなのに——どうして今、傷つけ合っているのだろう。
わたしは、すがりつくように胸に顔をうずめる彼を抱きしめた。抱きしめながら、ごめんと謝り続けた。
もう、あの日にはきっと戻れない。
恋と友情の微妙な境界線で、はしゃぎあった二人には——。
わたし達は泣きじゃくりながら、しばらく抱きしめあった。
そうする事しか、わたしには出来なかった。
そうする事しか、傷つけた一松くんの心に寄り添う方法が見つからなかった。
そして、この日を境に、二人で帰る日はパタリと無くなったのだった。