第40章 番外編 F6 十四松先生と二重奏を 第三楽章
わたしは取り繕うように話を続けた。
「あっ…えっと、一松くんが名前で呼んでいたから、わたしも釣られて名前になっちゃった!あははっ、先生に対して失礼だよねっ!」
一松くんの目が、探るようにわたしを見つめてくる。
「嫌な事をされていないのなら、良い事はされたのか?」
「な、なな何言ってるの!!そんな事…!!」
それはちょうど、広い公園に差し掛かった時だった。
「…こっちに来い」
「なにっ!?」
一松くんはわたしの手を強引に引いて、公園の奥へと連れて行く。
「…お前、アイツの言う通り。素直な音色だから嘘が下手…。楽器は内面を映し出す鏡とはよく言ったもんだな」
「やっ、ちょっと!離して!!」
公園の薄暗いベンチに無理やり背中を押し付けられた。
「いたい!…ねぇ、どうしたの…っ!」
「しょうがないよな。お前よりおれの方が…」
「な、何言ってるの……!!」
「お前を好きなんだから…」
ギシ、とベンチが軋み、一松くんがわたしの上に覆い被さった。
「一松くん…!?」
押さえつけられた腕の痛みが、逃げられないという事実をつきつける。恐怖心から涙が勝手に溢れ出していた。
「やめ…て…っ!」
「…ナイト失格だな」
一松くんは、自嘲するように哀しげな笑顔を見せると、わたしの唇をいとも容易く奪い、シャツのボタンに手をかけた。