第40章 番外編 F6 十四松先生と二重奏を 第三楽章
「はぁ…一松くんのドラムも見納めかぁ。高校から始めたって言っていたけれど、一年生の頃からすごく上手だったよねー」
二人で三年間を振り返りながら帰る。
「そうか?お前も始めからうまかったぞ?」
「わたしは中学から続けていたからね」
「アイツ……十四松も、入部したての頃からお前の音色を褒めていた」
「でも、垢抜けなかったって言われちゃった!」
わたしが照れ隠しで笑うと、急に一松くんが手を繋いできた。
「一松くん…?」
「主、十四松の事なんだけど」
「な、なに?」
その表情を見てドキリとした。
一松くんの瞳が、心の奥底を覗き込むようにわたしを見つめている。
「…何か、嫌な事とかされなかったか?」
「…どうして?」
「お前、一瞬音が出なくなった時、何かを隠しているみたいだった」
「嫌な事なんて何一つされていないよ。十四松先生はいつも優しくて…」
そう言いかけてハッとする。
間違えて、名前で先生を呼んでしまっていた。