第40章 番外編 F6 十四松先生と二重奏を 第三楽章
「もうっ!びっくりさせないでくださいっ!」
「アッハハ!ゴメンゴメン!キミを見るとつい悪戯したくなっちゃうんだよねっ!」
松野先生はわたしの隣に腰掛けた。
「三年間お疲れさま。キミとおそ松のソリ(ソロの複数形)、全国大会が一番素敵だった」
「ありがとうございます」
「主の音質は柔らかいから、おそ松の煌びやかな音色を引き立てるのに最適だと思って、ああいうアレンジにしたんだ。あっ、否定している訳じゃないよ?」
「ふふっ、分かってます」
わたし達の視線の向こうでは、ネズミが駆け回り、みんなが(主にトド松くん)パニックになっている。
騒ぎを遠くで眺めながら、わたしと先生は会話を続けた。
「あれ?今わたしのこと、名前で呼んでくれましたねっ」
「ハハッ、今のはワザと」
「ではお返しに…十四松先生っ」
初めて下の名前で呼ぶと、先生のタレ目がちな瞳が細められ、ほんのり頬が赤くなった。
「その呼び方は…あの約束をぼくが破っちゃいそうだからダーメッ!」
「言い出しっぺは先生ですから、きっちり守ってくださいね!勉強に行き詰まったら、楽器を持って遊びに行きますから!」
「あいっ!受験勉強がんばってね!!ぼくも曲を完成させるよっ!」
クシャクシャと頭を撫でられ、嬉しさとくすぐったさで胸がときめく。
二人でしばらく話し込んでいたら、おそ松くんとカラ松くん、チョロ松くん達が部室に入ってきた。
「チッ、こんなところで堂々とイチャついてんじゃねー!」
「主さん、音楽室は掃除終わりました。部室はどうですか?」
「チョロ松くんお疲れさま。えっと…こっちはネズミを追い出したらおしまいかな…」
自分で言った「おしまい」という言葉に、勝手に寂しさが込み上げてくる。
「じゃあ、もう少しここでネズミのがんばりを見守ってようか?」
「…おそ松くん?」
「なんとなく、僕もキミと同じ気持ちになったんだ」
おそ松部長には、まるっとお見通しだったようだ。