第39章 ※番外編 F6 十四松先生と二重奏を 第二楽章
第二楽章は、一楽章の明るさとは一変して、ゆったりとした物悲しいアルペジオ(分散和音)から始まった。
曲の冒頭に記譜されている音楽用語は「appassionato」。意味は——
(熱情的に…)
切なさの中に見え隠れする熱い思いが、先生のピアノのタッチに込められる。
聴いている女生徒は、ウットリと松野先生に見惚れつつ聴き惚れている。
そうやって、先生はすぐ魔法みたいに、みんなを夢中にしてしまう。
突然、曲の雰囲気が変わり激しいパッセージが始まると、先生は額から汗を飛ばしながら眉根を寄せ、アルペジオを情熱的に弾き鳴らした。
先生の狂おしいほどの思いが伝わってくる。
わたしも先生に魅了された女の子達の、たった一人にすぎない。
けれど、この曲は…わたしの曲。
松野先生がわたしにプレゼントしてくれた、今の二人が、恋人でいられる唯一の世界。
(先生、わたしの気持ち、受け止めてください…!)
情熱的なアルペジオの上で、愛らしく叙情的なトランペットの旋律を精一杯歌い上げた。
不器用なトランペットを、先生のピアノはどこまでも優しく、熱情的に包み込んでくれた。
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