第39章 ※番外編 F6 十四松先生と二重奏を 第二楽章
わたしは、突然の事に身体が硬直し動けなくなった。
松野先生は、触れるだけのキスをした後、そっと唇を離す。
「みんなにはナイショだよ?お姫様。さ、もう一度吹いてごらん?」
わたしの身体が驚きと動揺で震えだす。
「こ、こんなの…!!ふざけないでください!!わたしのこと、何だと思っているんですか!!」
初めてのキスを奪ったのにも関わらず、ケロッとしている松野先生に怒りをぶつけてしまった。
軽くあしらわれたことに心がグサリと傷つき、涙がこぼれる。
すると、わたしの泣き顔を見た松野先生は、意外にも顔を赤くしながら余裕がなさそうに声を荒らげた。
「…頼むからっ!ぼくを先生でいさせてよ!」
松野先生はその美しい顔を苦しそうに歪ませる。
「この間の件は本当にすまないと思っている!でも、あまりにもキミが魅力的で…理性を失ってしまった…!キミの気持ちに、ぼくが気づいていないとでも思っていたの?」
抱きしめたいのを必死に堪えるかのように、わたしの肩を両手でキツく掴んだ。
「本当はキスだって…するつもりはなかったんだ。でもぼくだって男だ!愛する人にあんな顔されたら…」
「松野先生…」
(今…愛するって…)
「だけどまだダメだ!ダメなんだよ!!ぼく達が問題を起こし世間に知れたら、キミ達が頑張った三年間はどうなる?みんなで努力し、汗と涙を流した三年間は!!」
こんなに真剣な瞳の松野先生は初めてだった。
「二人の関係がバレて、ぼくがクビになるくらいなら構わない。ぶっちゃけて言うと、作曲だけで食っていけるしね。でも、キミ達の三年間を台無しにするわけにはいかないんだ!ぼくの気持ち…わかって欲しい」
先生は、わたし達のコンクールを何よりも大切に考えてくれていたんだ。
「松野先生…わたしも、先生を…!」
「好き」と言いかけた所で、人差し指を唇に当てられた。
先生は首を横に振る。
「約束して。もうキスも何もかも卒業までお預け。それまでは…これをキミに——」
そう言うと、一枚の紙を渡してきた。