第39章 ※番外編 F6 十四松先生と二重奏を 第二楽章
「じゃあ、チューニングの音吹いてみて?」
わたしはいつも通り楽器を構えて音を出した。
「……」
ダメだった。
もう、泣きそう。
なんで…。
あと一週間で本番なのに…。
・・・
何度か試した後、わたしは楽器を下ろした。
「すみません。わたし、降ります。後輩にセカンドパートを」
「甘えないで」
「えっ」
松野先生は、厳しい表情になりながらもわたしの頭を優しく撫でてから、唇を親指でなぞった。
「この間二人で演奏した時、あんなに素敵な音色を出せていたんだ。出来るはずだよ?」
「でもっ…でもわたし、分からないんです。どうしてこんな…急に…っ!」
泣きたくなかったのに、悔しくて涙が溢れてきてしまう。
「ぼく、言ったよね?楽器は奏者の内面を映し出す鏡だって…」
「グス…ッ。は、はい…」
「音が出ない。つまり、キミは本心を隠している。違う?自分自身に嘘をつこうとしてない?」
「!!」
その言葉に全身が熱くなった。
耳の奥で自覚できるほどの激しい鼓動が、ドクンドクンと聞こえてくる。
「わ、わたしは…だめ…だから…っ…我慢、しな…いと……」
紺碧の瞳に導かれ、つっかえながらも言葉が勝手に紡ぎ出される。
「ハァ……そんな顔を見せられて我慢できるほど、ぼくはキミみたいに大人じゃない」
松野先生は、深いため息と共にわたしの腰を抱き寄せた。
「せんせ…い?」
「しょうがないプリンセスだ。チョロに怒られちゃうけど」
あの夜のように、顎を掴まれ上を向けさせられる。
「特効薬をあげる」
「っ!!」
甘いバニラ味の唇が、わたしのファーストキスを奪った。