第39章 ※番外編 F6 十四松先生と二重奏を 第二楽章
次は、トド松くんの華麗なフルートソロの後に、トランペットソロがメロディーを受け継いで高らかに歌い上げる重要な部分。
1stトランペットのおそ松くんが奏でるメロディーに、2ndトランペットであるわたしの副旋律が絡み合う二人の見せ場だ。
わたし達が出場する吹奏楽コンクールは、指定された課題曲と自由曲の二曲を演奏する。
実は、今年自由曲で持っていく曲は、松野先生がピアノ曲を吹奏楽用に編曲したものだ。
部員一人一人の力量を考えて編曲してくれたらしい。
つまりこの副旋律は、先生がわたしに与えてくれた大切なメロディーなのだ。
(よし!がんばろう!)
わたしは、深くブレスを取りマウスピースに唇をあてがった。
———だけど、
………
(!?)
音が…出ない……?
松野先生がタクトで譜面台を叩き、曲が止まる。
「もう一度『D』から」
『はいっ』
わたしに気を使って、敢えていつも通りハキハキ返事をするみんなに対し、プレッシャーが高まる。
「落ち着いて…」
おそ松くんが隣で囁いてくれた。
でも、この日の合奏で、わたしのトランペットが鳴ることはなかった。
休憩中、何度も何度も繰り返し練習しても。
一度も鳴ってはくれなかった。
・・・
「フゥー」
松野先生がタクトを譜面台に置いた。
「今日の練習はここまで。部長、副部長!」
「はい!」
おそ松くんが返事をする横で、わたしは手をギュッと閉じた。
悔しさで握りしめた手は汗ばみ、半円の爪痕が残っている。
「みんなにアイス買ってきて」
松野先生が優しく瞳を細めて笑った。