第38章 ※番外編 F6 十四松先生と二重奏を 第一楽章
「でも、今のキミの音色は純粋で素直なのに、どこか大人びていた。三年経つとこんなにも変わるものなんだね」
「ふふっ、ドキッとしちゃいましたっ?」
ちょっとだけおどけてみせる。
すると…
「うん。終わりの方のテーマなんて、まるで…悪戯におれを誘うような音を奏でていた——今みたいに」
「え…っ?あ、あのっ!」
フワリと笑っていた松野先生が、急に目を細め顔を近づけてきた。
「先生、こう見えて大人なんだよ?大人をからかっちゃダメだって、教えてあげようか?」
初めて見るギラリとした瞳に捕らえられ、わたしは身動きが取れなくなる。
「や…っ、ご、ごめんなさ…いっ」
「汗で下着がスケスケだよ?…イケナイお姫様だ」
「あ……」
わたしの汗ばんだ首筋に、唇が落とされた。
(うそ…そんな……!)
未だにこの状況を信じられない自分がいた。
いつもの面白くて優しい先生じゃない。
今ここにいるのは、松野先生とは別の誰かなんだと思いたかった。
(10000人切りの王子って…まさか、本当だったの!?)
机にそのまま押し倒されそうになったその時、
——ガチャン——
音楽室の重い扉が開いた。