第38章 ※番外編 F6 十四松先生と二重奏を 第一楽章
わたしは廊下を早足で歩いている。
(松野先生、合奏の時間なのにまた遅れて!!)
分かっている。
松野先生はきっといつもの場所にいるはず。
下駄箱でローファーに履き替える。目指すは野球部のグラウンド。
ほら、いた。
「松野先生!!」
松野先生は、大抵いなくなると野球部の練習を見に行っている。
「あれー?もう見つかっちゃった。さすが副部長!」
「先生!合奏の時間ですから早く音楽室へ戻ってください!先生が戻ってこないから、チョロ松くんが基礎練習ミッチリやってて、みんなクタクタですよ!」
「それは大変。呼びに来てくれてセクロス!あ、間違えた。サンクス!」
(間違える言葉が教師失格ですって…)
松野先生はわたしの頭をポンと撫でると、肩にかけていたジャケットを着なおし歩き出した。
そんな松野先生の隣を、わたしは並んで歩くのが好きだ。
だってこの三年間、先生の隣を並んで歩いて沢山おしゃべりしてきたから。
一分でも長く、大好きな先生を独り占めしたいから。
高校を卒業したら、こうして肩を並べて歩けなくなってしまうから。
そう。
今年の夏が、高校三年生最後のコンクール。
夏のコンクールは、あと一ヶ月後に迫っていた。