第37章 番外編 F6 カラ松と捨て犬
白いニットは想像通り、抱きしめると柔らかくて暖かくて、犬の毛並みたいだった。
「…気にいらねー」
「え…?」
「今日で最後みたいな言い方しやがって!友達が出来たら、オレとは終わりではいサヨナラか?ナマイキなヤツ!」
主の身体が震えていたので、髪を撫でながらキツく抱きしめた。
「だって、忙しいのにこれ以上付き合わせたら、迷惑だと…」
「勝手に迷惑だって決めつけんじゃねー!!それに、アイドルとかそーゆーのは関係無いんだよ!オレが一言でも自分からアイドルだって名乗ったことあったか?」
「あ、ありません…」
「当たり前だ!オレは、テメーといる時はアイドルでも何でもない、ただのそこら辺にいる男、『松野カラ松』なんだ!」
オレがここまで胸の内をさらけ出しているのに、コイツときたらキョトンと小首を傾げてやがる。
「な、なんでそんな勿体無い事を言うんですか?せっかく、世界中で人気なスーパーアイドルなのに…」
本物のバカなのか、コイツ?
なんでこんなに鈍いんだ?
アイドルとしてでは無く、一人の男としてオレを見ろって事だろ?
(まてよ?っつーことは…)
そこでオレは一つの答えを導き出した。
そうか…コイツは、人の心に鈍感だから会話が成り立たねーんだ。
純粋過ぎるから空気も読めないし、計算も出来ねー。下心も邪心もまるで無い。
だが…だからこそ、オレを『F6』だと分かっていても、媚びたりせずに接してくれたのか。
『松野カラ松』に懐いてシッポを振ってきてくれていたのか…。